東北大学金属材料研究所の毛利哲夫教授、同大学工学研究科の陳迎教授、産業技術総合研究所の香山正憲首席研究員、大阪大学の尾方成信教授らによる共同研究グループは、スーパーコンピューターを用いて材料の強さに関わる解析・設計の手法を新たに開発しました。
材料の強さは、原子間の結合の強さと、もう少しスケールの大きな結晶粒界や転位線といった原子配列の乱れ(欠陥)にも大きく影響を受けます。しかし現在の材料設計は経験にもとづくところが大きく、労力・経済の面でも非効率的です。効率的な材料開発のためには、原子間の結合、原子配列の乱れといったミクロレベルの現象を考慮した材料設計手法を確立することが必要不可欠ですが、今日まで十分には成し遂げられていませんでした。
そこで本研究グループは、材料の強さというマクロレベルの現象が発現する仕組みを、ミクロレベルから調べる、すなわちマルチスケールで材料の解析・設計する手法を開発すべく、スーパーコンピューターによる解析を行いました。これまでも、原子の結合力に着目した材料の「強さ」は解析されていましたが、本研究では、その「強さ」の背後に磁性の効果など、多様な物理が関与していることを初めて明らかにしました。さらに、最新の計算手法を用いて、これまでわからなかった欠陥の周囲の原子の位置や動きを可視化することに成功し、強さ、靭さ、弱さ、脆さを生じる原子配列の変化(素過程)を明らかにしました。
本研究では、電磁鋼板で有名なFe-Siを対象にして解析を行いましたが、本手法は他の材料にも適用可能です。今後スーパーコンピューターを用いた、材料設計の緻密化、効率化の促進が期待されます。
本成果は「npj Computational Materials-Nature」に2017年3月10日に掲載されました。
詳細1: プレスリリース本文 [PDF:669KB]
詳細2: npj Computational Materials-Nature ウェブサイト [DOI:10.1038/s41524-017-0012-4]
概要図:実材料の強度には、電子・原子のふるまいと内部組織の両方が影響する。