発表のポイント
- 右手と左手のように、鏡に映した像が元の像と重ならない性質「カイラリティ(掌性)」は、医薬品の薬効やハーブの香りの違いなど、身の回りのさまざまな現象に深く関わっています。これまで物質のカイラリティは、原子の並び方(構造)によって生じると考えられてきました。
- 研究グループでは、結晶構造はカイラリティを持たないにもかかわらず、電子の配列だけがカイラリティを持つ可能性を理論的に提案していました(令和8年2月17日プレス発表)。今回、その新しい電子状態をウラン化合物で発見し、実際の物質中で実現していることを初めて確認しました。
- 本成果は、「カイラリティは原子配列に由来する」という従来の常識を拡張するものです。電子由来のカイラリティを利用することで、光や電流、磁場による超高速な機能制御が可能となり、新しい光学機能材料やスピントロニクス材料への展開が期待されます。
概要
私たちの右手と左手のように、鏡に映した像が元の像と重ならない性質を「カイラリティ(掌性)」と呼びます。右巻き・左巻きのネジやDNAのらせん構造にも見られるこの性質は、医薬品の薬効や香りの違いなど、身の回りのさまざまな現象に深く関わっています。これまで物質におけるカイラリティは、構造そのものが左右非対称であることによってのみ生じると考えられてきました。
一方、日本原子力研究開発機構の強相関アクチノイド科学研究グループは、原子の配列が左右対称でカイラリティを持たなくても、原子に付随する電子の配列によってカイラリティが生じる可能性を理論的に提唱していました。今回、研究チームはウラン化合物「URhSn」に着目し、核磁気共鳴(NMR)法を用いてその詳細な電子状態を調べました。その結果、-219 ℃(54 K)以下の低温域において、ウラン原子周りの電子の分布に方向性が生じ、その並び方全体が「右手・左手」のカイラリティを持つことを世界で初めて明らかにしました。
本成果は、「カイラリティは原子配列によって生じる」という従来の常識を拡張する発見です。原子(核)よりはるかに軽い電子がつくるカイラリティを利用することで、光や電流、磁場による高速な機能制御が可能となり、次世代の光学機能材料やスピントロニクス材料への応用が期待されます。また本研究は、自然界で最大級の電子数を持つウランを含む化合物が、未知の量子現象を創発する「量子マテリアル」として、極めて高いポテンシャルを持つことを改めて実証しました。
本研究は国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:小口正範)原子力科学研究所先端基礎研究センター 強相関アクチノイド科学研究グループの徳永陽グループリーダー、石飛尊之博士研究員(現、東北大学大学院理学研究科)、国立大学法人東北大学(総長:冨永悌二)金属材料研究所の清水悠晴助教(現、東京大学物性研究所)、青木大教授らによるものです。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF: 475KB]
- Physical Review Letters [DOI: https://doi.org/10.1103/1vjx-4jfv]

