プレスリリース・研究成果

アルファ線飛跡シミュレーションの高精度化に成功 ~次世代がん治療の細胞レベル線量評価へ貢献~

2026/06/25

発表のポイント

  • 世界的な放射線シミュレーションツールのアルファ線飛跡計算精度を検証。
  • 従来のシミュレーション設定では、飛跡終端に実際には観測されないエネルギーの集中(誤信号)が現れ、細胞レベルの線量を過大に見積もる可能性があることを発見。
  • シミュレーション設定を最適化し、誤信号の発生抑制に成功。
  • 放射線により発光するシンチレータで可視化したアルファ線飛跡を、人体組織内の線量評価へつなげるための基盤的知見を取得。

概要

 近年、アルファ線放出核種を用いたがん治療(標的アルファ線治療)は、全身に転移を有する症例に対する有効な治療法として世界的に期待されており、日本においても標的アルファ線治療の研究開発および実用化に向けた取り組み強化が国の方針として掲げられています1)。また、標的アルファ線治療の治療効果は、アルファ線ががん細胞に付与する線量に依存するため、アルファ線の線量評価が世界的な研究トピックとなっています。

 東北大学金属材料研究所 吉野 将生 准教授は、名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻の中西 恒平 助教、西井 龍一 教授、上髙 祐人 助教、早稲田大学理工学術院 山本 誠一 上級研究員(研究院教授)、福島県立医科大学保健科学部 三輪 建太 教授、宮司 典明 講師との共同研究により、世界的に利用されている放射線シミュレーションツールGeant4/GATE)によるアルファ線飛跡計算の精度を、実験画像との比較により検証しました。その結果、従来の計算設定ではアルファ線が止まる位置(飛跡終端)に実際には観測されないエネルギーの集中(誤信号)が現れ、アルファ線の細胞レベルの線量を過大評価する可能性があることを明らかにしました。

 また、本研究グループはシミュレーション設定の最適化も行い、誤信号の発生抑制に成功しました。さらに、シンチレータ内のアルファ線飛跡を、人体組織における線量評価へつなげる基盤的知見を取得し、線量評価への応用可能性を示しました。本研究の成果はアルファ線による細胞レベル線量評価の信頼性向上につながるものです。

 本成果は2026年6月24日17時30分(日本時間)付で英国物理学会出版局(IOP Publishing)が発行する医学物理分野の国際学術誌「Physics in Medicine & Biology」オンライン版に掲載されました。

詳細

図1 設定によるアルファ線飛跡終端の違い