研究成果のポイント
- 空気中の水分子を吸着・放出して蓄放熱することが可能な層状二酸化マンガン(MnO2)を厚さ数nm(ナノメートル。ナノは10億分の1)のシート状に微細化することによって、蓄熱エネルギー密度がバルク状に比べて1.3倍に向上し、100℃以下でも機能する低温蓄熱材料を実現しました。
- これまでも注目されてきた130℃付近で生じる水分子の層間インターカレーション(バルク吸収)に加え、60℃以下で顕在化する表面吸着が寄与する二段階蓄熱メカニズムを解明しました。
- 蓄熱温度域の拡大により、昼間の太陽熱を夜間暖房へ転用する低炭素型ヒートマネジメント技術など幅広い蓄熱応用が期待されます。
概要
脱炭素社会の実現に向け、200℃以下の低温廃熱の有効活用が求められており、これを貯蔵し再利用する蓄熱材料の開発が課題となっています。層状二酸化マンガンは、これまで約130℃で大気中の水分子を層間に取り込む、高密度かつ高速に蓄放熱可能な材料として注目されてきました。
東北大学大学院工学研究科の吉迫大輝 大学院生、同大学金属材料研究所の岡本範彦 准教授と市坪哲 教授(日本原子力研究開発機構 原子力科学研究所 先端基礎研究センター 耐環境性機能材料科学研究グループリーダー兼任)らの研究グループと、日本原子力研究開発機構 原子力科学研究所 先端基礎研究センター耐環境性機能材料科学研究グループの田中万也 マネージャーは、層状二酸化マンガンを厚さ数nmのシート状に微細化することで表面積を大幅に増大させ、従来顕在化しなかった60℃以下での表面水分子吸着を顕在化させることに成功しました。その結果、吸着可能な水分子量は従来比約1.5倍、蓄熱エネルギー密度は約1.3倍に向上し、100℃以下という低温域での蓄熱動作が可能になりました。また、インターカレーション水と表面吸着水の収容サイト数をシート厚から予測するモデルを考案し、それぞれ固体的、液体的な状態で吸着されていることを解明しました。本成果は、低温域での蓄熱性能の設計指針を提供すると共に、昼間の太陽熱を利用した夜間暖房や、機械暖気、オフライン廃熱輸送、熱電変換との組み合わせによる場所・時間を選ばない発電など、多様な省エネルギー技術への応用が期待されます。
本成果は、2025年6月3日に、科学誌Communications Chemistryにオンラインで公開されました。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF: 1.2MB]
- Communications Chemistry [DOI:10.1038/s42004-025-01567-2]