概要
4d 電子同士の強い相関効果によって金属性が抑制されたモット絶縁体Ca2RuO4は、わずか40 V/cm という低い電場印加で室温において絶縁体‐金属転移を起こします。このため、Ca2RuO4は次世代の低電力スイッチング素子「モットメモリ」を実現させうる有力候補物質としてとして注目されています。しかし、これまでの電場印加の実験では、試料上に直接形成した電極から電場を加えていたため、金属化と同時に試料に大きなバイアス電流が発生することが不可避でした。これが、ジュール発熱の効果を完全に排除した金属化の議論を困難にしていました。
最近、東北大学金属材料研究所の野島勉准教授と久留米工業大学の酒見龍裕助教、中村文彦教授らの研究グループは、化学量論的組成のCa2RuO4単結晶の表面に電気二重層トランジスタ(EDLT)構造を作製することで、バイアス電流を伴わない純粋な電場効果による金属化に成功しました。Ca2RuO4 -EDLTにおける最大97%におよぶ抵抗減少効果はゲート電圧に対する良い可逆性と再現性だけでなく、長期間にわたって進行するという独特の特徴を示します。測定結果を解析することにより、EDLTの強い表面電場が従来から知られる試料表面へのキャリアドーピングに止まらず、バルク内部(深さ約100 nm以上)へと広がる構造変化を引き起こすことを突き止めました。 この結果は、強相関電子系の理解を深めるだけでなく、非線形・非平衡性を考慮した物理現象の解明や、新たな電子デバイスの実現にも貢献することが期待されます。
本研究成果は1月23日にJournal of Physical Society of Japan (JPSJ) にオンライン掲載され、2025年2月号の注目論文(Editors’ Choice)に選ばれました。非専門家向きの国際的ウェブジャーナル JPS Hot Topics にも掲載予定です。
詳細
- 詳細:表面に蓄積した電荷でモット絶縁体がバルクに金属化 [PDF: 392 KB]
- Journal of Physical Society of Japan [DOI: 10.7566/JPSJ.94.023703]