発表のポイント
- 結晶多形の制御は結晶育成の様々な局面において極めて重要ですが、どの結晶多形が選択されるのかという詳細なメカニズムは未解明です。
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本研究では、ヘテロエピタキシャル成長により大きさが1マイクロメートル以下(サブミクロン)のコロイド粒子が規則配列したコロイド結晶の結晶多形の形成を実現し、その場観察によって核形成や結晶成長中の多形転移の挙動を明らかにしました。
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核形成以前の状態であるクラスターの安定性や晶出結晶のサイズが多形転移を引き起こす重要な因子であり、それが最終的に選択される結晶多形の選択に寄与していることを明らかにしました。さらに、各多形におけるクラスター形態の違いに着目した多形制御を実証しました。
概要
化学組成が同じで結晶構造が異なる物質を結晶多形といい、物性や化学的性質が異なるため、その中から所望の構造を選択的に成長させることは材料や医薬品の創製において重要なポイントです。しかしながら、多形間に転移をともなう結晶化の詳細なプロセスは未解明であり、分子や原子スケールでの描像が求められています。本研究では、相転移のモデルとしてコロイド系を用いて、結晶多形の選択機構の解明にアプローチしました。
東北大学金属材料研究所の野澤純 特任助教、金沢大学学術メディア創成センターの佐藤正英 教授、東北大学未来科学技術共同研究センターの宇田聡 教授、東北大学金属材料研究所の藤原航三 教授からなる研究グループは、コロイド結晶においてヘテロエピタキシャル成長を用いることで結晶多形の形成を実現し、1粒子分解能のその場観察によって多形転移が核形成や結晶成長に与える効果を明らかにしました。特に、核形成や成長のプロセスで起こる3種類の多形転移が、最終的な結晶多形の選択に重要な役割を果たすことを見出しました。この研究の成果は、創薬を含むさまざまな系における結晶多形の制御に大きく貢献すると期待されます。
本研究成果は、2025年4月9日(英国夏時間)に科学誌 Communications Physicsに掲載されました。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF: 742KB]
- Communications Physics [DOI: 10.1038/s42005-025-02062-9]

図1. (a) ヘテロエピタキシャル成長により得られた結晶多形の顕微鏡像および模式図(α相:緑色,β相:赤色)。粒径860 nmのポリスチレン粒子をエピタキシャル相、1300 nmを基板結晶に使用。(b) 核形成における多形転移のスナップショット。(c) 結晶成長中に起きる溶液を媒介して発生するα相からβ相への多形転移のスナップショット。(d) 結晶成長中に起きる固体のα相から固体のβ相への多形転移のスナップショット。