プレスリリース・研究成果

磁性の微視的情報からスピン流の挙動を予測可能 ─大幅な省エネを実現するスピントロニクスの進歩に貢献─

2024/04/09

発表のポイント

  • スピントロニクスの研究では情報処理の担い手となるスピン流が重要ですが、微視的な観点からの理解は進んでいませんでした。
  • 磁性絶縁体で生じるスピン流の温度変化が、磁気励起分散およびマグノン極性の情報から予測可能であることを見出しました。
  • 磁気励起の微視的情報によって絶縁性磁性体におけるスピン流の予言が可能となり、スピン流伝搬の高効率化に適した物質の開発に繋がることが期待されます。

概要 

 大幅な省エネを実現するスピントロニクス技術では、スピン自由度の流れ、つまりスピン流が重要な要素です。これまでは生成されたスピン流を電圧の情報に変換して巨視的に観測することが一般的でした。しかし、運動量・エネルギー空間における情報など、微視的な視点での理解は進んでいませんでした。エレクトロニクスにおける電流と同様に、スピントロニクスにおけるスピン流は構成素量である点で重要ですが、その温度変化の予言も難しい状況でした。

 東北大学金属材料研究所の川本陽大学院生(研究当時)と南部雄亮准教授らの研究グループは、磁性絶縁体に対して熱的に生成したスピン流の信号測定と偏極中性子散乱実験を行い、スピン流の温度変化が磁気励起分散とマグノン極性(磁気モーメントの歳差運動の回転方向)の情報によって理解できることを明らかにしました。

 本研究により、絶縁性磁性体におけるスピン流の予言が可能となり、スピントロニクスやその進化系であるマグノニクスの分野において新たな展望が開かれることが期待されます。

 本研究成果は、米国物理学協会(AIP)が発行するApplied Physics LettersのSpecial Collection "Magnonics"において、2024年3月27日付けで公開されました。さらにFeatured Article(注目論文)とAIP Publishing Showcaseに選出されました。

詳細

 

図1. スピン流信号の温度依存性と偏極中性子散乱により観測された310 Kと160 Kにおける磁気励起分散のマグノン極性