発表のポイント
- 従来の検出技術では金属中の水素原子は観察が困難でしたが、光学顕微鏡と「水素原子と反応して色が変わる高分子」を用いて、水素原子が流れる様子の撮影に成功しました。
- 金属中の水素原子の流れを動画として撮影し、「金属のミクロな構造」と「水素の流れ」の関係を世界に先駆けて実験的に解明しました。
- 本手法は金属中の水素原子のふるまいを解析する道を拓き、水素社会を支える高機能材料の開発を飛躍的に促進することが期待されます。
研究概要
地球上のあらゆる場所に存在する水素は、国内でも製造できるだけでなく、利用時に二酸化炭素を排出しない環境にやさしいエネルギー源として期待されています。水素エネルギーを基盤とした社会(水素社会)の実現には、水素を製造、貯蔵、輸送そして保存するための材料が重要です。水素に関連する高機能の金属材料を開発するためには、材料中の水素のふるまいを理解する必要がありますが、最小原子である水素原子はその特異な性質ゆえにX線等では検出が難しいと考えられています。したがって、従来技術では金属中の水素原子を高空間分解能かつ高時間分解能で観察することは困難でした。
東北大学金属材料研究所の柿沼洋助教らは、光学顕微鏡と”水素原子と反応して色が変わる高分子”を用いて新しい水素観察手法を開発し、広い視野における金属中の水素原子の流れを高空間分解能で動画として撮影する技術の開発に世界で初めて成功しました。本成果により、これまで不明瞭であった原子レベルの金属の構造とマイクロスケールの水素のふるまいの因果関係を直接観察できるため、耐水素材料や水素透過膜のような水素社会を支える機能性材料の開発を飛躍的に促進することが期待されます。
本研究成果は2023年11月17日に、無機物材料分野の専門誌Acta Materialiaに掲載されました。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF:574KB]
- Acta Materialia [DOI: 10.1016/j.actamat.2023.119536]
(a) 従来技術と本研究で開発した水素観察技術の性能比較 (b) ポリアニリンを用いた水素可視化法の断面模式図