発表のポイント
- 半導体材料3C-SiCが理論値に相当する高い熱伝導率を示すこと初めて実証。
- これらの高い熱伝導率は、結晶の純度・品質が高いことに起因することを解明。
- マイクロサイズデバイスへの応用や、簡便な大量生産・大面積化が期待。
概要
東北大学金属材料研究所の大野 裕特任研究員、永井 康介教授、大阪公立大学大学院 工学研究科の梁 剣波准教授、重川 直輝教授とイリノイ大学のZhe Cheng博士、David G. Cahill教授、エア・ウォーター株式会社の川村 啓介博士、ジョージア工科大学Samuel Graham教授らの研究グループは、半導体材料3C-SiCが理論値に相当する高い熱伝導率を示すことを、熱伝導率の評価と原子レベルの解析から初めて実証しました。
炭化ケイ素(SiC)は、次世代パワーデバイスの半導体材料として大きな注目を集めており、温度上昇によるデバイスの故障や性能低下を防ぐために、熱伝導率が高い材料の開発が求められています。結晶では、構造が単純なほど熱伝導率が高くなりますが、図1の青色網掛け部分において、ダイヤモンドに次いで結晶構造が単純な3C-SiCではこれまで理論値レベルの高い熱伝導率の実証はできていませんでした。
本研究では、エア・ウォーター株式会社が開発した3C-SiC結晶について、熱伝導率の評価および原子レベルの解析を行いました。まず、熱伝導率の評価を行ったところ、3C-SiC結晶は大口径材料の中では熱伝導率が最も高いダイヤモンドに次いで2番目の熱伝導率を示すこと(図1)、髪の毛の50分の1の厚さの薄膜状にした場合、ダイヤモンドよりも高い熱伝導率を示すことを実証しました。また、図1の評価で示された熱伝導率は、理論値に相当しました。
次に、高い熱伝導率を示す理由を調べるために原子レベルの解析を行ったところ、この3C-SiC結晶は不純物をほとんど含まず純度が高いこと、また、結晶内の原子が規則的に配列しており、単結晶としての品質が非常に高いことが分かりました。
さらに、3C-SiC結晶をシリコン基板上に形成し、界面の熱伝導率について原子レベルの解析を行ったところ、界面の原子配列に大きな乱れはなく、シリコン基板との界面も高い熱コンダクタンスを示すことが明らかになりました。
本研究成果により、3C-SiCが薄膜状でも高い熱伝導率を示すことが実証されたため、集積回路への応用が期待されます。また、3C-SiCは現在普及している4H-SiCとは違いシリコン基板上での形成が可能なため、簡便に大量生産や大面積化できると考えられます。
本研究成果は、Nature Publishing Groupが刊行する国際学術雑誌「Nature Communications」に、2022年11月24日(木)にオンライン速報版として掲載されました。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF: 749KB]
- Nature Communications [DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-022-34943-w]
図1 3C-SiCの熱伝導率と他の半導体材料との比較