発表のポイント
- 独自の物質開発指針を基に、理想的な反強磁性的ハーフメタルの合成に成功しました。
- 開発指針の信憑性が実証できたので、今後の反強磁性的ハーフメタルの探索が加速されます。
- 反強磁性的ハーフメタルを利用した超高機能な電子デバイスの実現が期待されます。
概要
高度IT化社会を支える基盤技術には、超低消費電力、高速演算等の性能を持つ電子デバイスが必要不可欠です。これを受けて、デバイスの性能を飛躍的に向上させる物質として「ハーフメタル」と呼ばれる物質群が盛んに研究されています。これまで開発されたハーフメタルは強磁性体が中心でした。もし、ハーフメタルが反強磁性的であれば、外部への漏れ磁場が発生せず、高密度に集積してもデバイス内での磁気的相互作用による擾乱が起こらなくなります。そのため反強磁性的ハーフメタルとなる物質が長年探索されていましたが、今まで2例が見出されたのみでした。
東北大学金属材料研究所の千星聡准教授と梅津理恵教授、海洋研究開発機構の川人洋介上席研究員、大阪大学大学院工学研究科の赤井久純招へい教授(研究当時:東京大学物性研究所)の研究グループは、反強磁性的なハーフメタルの開発に成功しました。「遷移金属元素の価電子数を合計で10にする」という独自の開発指針を基に、鉄、クロム、硫黄からなる化合物を合成しました。本物質は低温で完全に磁化を消失し、かつ、ある温度以上では最大3.8Tの高保磁力を有するハーフメタルです。優れた特性を示す反強磁性的ハーフメタル物質の合成に成功したことに加えて、物質の開発指針を実証した本成果は、今後の物質探索・開発を高効率化し、電子デバイス革新を加速させるものと期待されます。
本研究成果は、Springer Nature社刊行の学術雑誌Scientific Reportsに、6月23日(英国時間)に公開されました。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF: 692KB]
- Scientific Reports [DOI: 10.1038/s41598-022-14561-8]
図1(左)反強磁性的(完全補償型フェリ磁性)ハーフメタルを用いたトンネル磁気抵抗(TMR)素子の模式図。(右)現行のTMR素子の模式図。強磁性層と反強磁性層を含む数種の層により、強磁性層の磁気モーメントの向きをピン止めする役割を備えている。この数種の層が1層の反強磁性的ハーフメタルに置き換わることで、高い特性と低い漏れ磁場が実現され、高密度化を可能にします。