プレスリリース・研究成果

特定のレアメタルだけには依存しないリチウム蓄電池正極材料の合成に成功 酸化物におけるハイエントロピー化の効果を浮き彫りに

2022/04/12

発表のポイント

  • 層状岩塩型構造を単独では形成しない遷移金属元素が多数含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の合成に成功しました。
  • コバルトやニッケルといった特定のレアメタルに依存しない柔軟な材料設計の可能性を示唆するものです。
  • ハイエントロピー化によって材料を安定にすることで、高充電時の分解を抑制し、安全性向上に役立ちます。

概要 

 電気自動車などに使用されるリチウム蓄電池の正極材料には、コバルトやニッケルを始めとする特定のレアメタルを多く含む材料が用いられてきました。その理由は、正極材料に適した結晶構造を有する元素がこれらの元素に限られていたためであり、他の安価な元素を混合しようとしても、一定の濃度を超えるといわば水と油のように「相分離」してしまうためでした。
 東北大学金属材料研究所の河口智也 助教、卞篠(Bian, Xiao) 氏(東北大学大学院工学研究科修士課程学生)および市坪哲 教授らは、従来のように少数の元素種を混合するのではなく、発想を逆転させ、多数の元素を同時に混合してエネルギー利得(配置エントロピー)を高めることで、層状酸化物構造で構成される単一の相からなる正極材料の合成に成功しました。これにより、これまで利用が困難であった元素が利用可能になるだけでなく、新たな物性の発現や、分解抑制による安全性の向上、特定元素への依存による商業的リスクを低減した、新規な材料開発が可能になると期待されます。また、本研究ではそのようにして得られた正極材料の充放電時における劣化機構の詳細を明らかにすることで、新規高性能材料の開発に指針を示しました。本成果は2022年4月11日10:00(米国東部時間)に、米化学会が発行するACS Applied Energy Materials誌にオンラインで公開されました。

詳細