プレスリリース・研究成果

放射光でついに見えた磁気オクタポール 〜熱を電気に変える新たな担い手〜

2021/09/24

発表のポイント

  • 大きな熱電効果を示す物質で、その起源となる『磁気八極子(磁気オクタポール)』の実験的な検出に成功しました。
  • 放射光X線による新しい検出原理が実証されたことで、今後さまざまな物質への研究展開が可能となります。
  • 放射光X線を用いた分光実験に新しい方向性を提供し、これまで観測が困難であった『新たな自由度』に基づく物質の性質の理解を深めることに貢献します。

概要 

 物質中の電子が持つスピンを起源とする高い熱電変換効率や大きな異常ホール効果は、これまで電子スピンが揃った状態でのみ起こると考えられてきました。その一方で、スピンが互いに打ち消し合うように整列した反強磁性と呼ばれる状態でも、大きな効果が報告されており、スピンは打ち消し合っているにも関わらず、何らかの状態が打ち消し合わずに向きを揃えていると考えられていました。これは、「磁気八極子」として理論的に予測されていましたが、実験的には検出されていませんでした。
 東北大学金属材料研究所の木俣基准教授、野尻浩之教授と高輝度光科学研究センター(JASRI)の雀部矩正博士研究員、小谷佳範主幹研究員、横山優一博士研究員、東北大学大学院理学研究科の栗田謙亮大学院生、是常隆准教授、物質・材料研究機構の山崎裕一主幹研究員、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の中尾裕則准教授、雨宮健太教授、京都大学複合原子力科学研究所の田端千紘助教、東京大学大学院理学系研究科の中辻知教授、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターの中村哲也教授らの研究グループは、磁石のミクロな起源である電子スピンが互いに打ち消しあう反強磁性と呼ばれる状態の中に潜んだ「磁気八極子(磁気オクタポール)」を放射光X線実験から明らかにしました。
 今回検出された磁気八極子は、従来のスピンよりも高速制御が可能で、スピントロニクスデバイスなどの大幅な高速化にも貢献すると期待されています。本研究の成果は新規なスピントロニクスや熱電変換機能を生み出す起源を探る新たな手法の提案であるとともに、放射光を用いたX線磁気分光や共鳴X線散乱の新たな可能性を拓くものです。
 本成果は2021年9月22日10:00(英国時間)に、Nature Communications誌にオンラインで公開されました。
 

詳細

 

図1. 磁気双極子(スピン)と磁気八極子
左は磁気双極子で、磁石のNとSに相当するピンクと緑の空間分布に偏りがあり、これが磁石としての性質を担います。一方、Mn3Snの物質機能の起源と理論的に予測された磁気八極子は、右です。ピンクと緑の領域はちょうど打ち消し合うように上下に分布し、スピンが打ち消し合う様に整列した反強磁性と呼ばれる状態とも対応しています。従って磁気八極子は、磁石としての性質は持ちません。しかしながら原子レベルで磁気八極子を眺めると、ピンクと緑の空間分布が局所的な巨大磁場を生みます。この局所的な巨大磁場が、強磁性状態のような大きな物性応答の起源と考えられています。