プレスリリース・研究成果

磁性体におけるキラリティーメモリ効果の発見

2021/04/30

発表のポイント

  • 結晶や分子構造などにおいて、鏡に映した像がもとの構造と重ならない「ねじれた」性質をキラリティーと呼びます。
  • キラリティーは、高エネルギー物理から生命まで幅広い分野で重要な概念です。特に、生体中でキラリティーによるねじれ方がそろったホモキラリティーは生命の起源と関連した謎とされてきました。
  • キラル磁気状態であるらせん磁気状態のキラリティーについて調べた結果、非キラル相の強磁性相への相転移後でもキラリティーがドメイン壁のねじれとして保存されている現象が観測されました。

概要

 二重らせん構造を示すDNAなどのねじれた物質では、鏡に映した像はもとの構造とねじれ方が逆になります。このように鏡映像がもとの構造と異なる性質のことをキラリティーと呼びます。同様なキラリティーは磁気構造においてもつくることができます。磁気モーメントがらせん状に整列するらせん磁気構造は、DNAと同様にキラリティーを有しています。磁性体の磁気構造は極めて安定で外部磁場や温度などのパラメータで制御しやすく実験の再現性もよいことから、らせん磁性体はキラリティーを調べるための有用な舞台となっています。
 東北大学金属材料研究所の新居陽一助教、小野瀬佳文教授と東京大学大学院総合文化研究科大学院生および東北大学特別研究生(現在理化学研究所研究員)の蒋男は、東京大学大学院工学系研究科および東北大学材料科学高等研究所の齊藤英治教授、東邦大学理学部の大江純一郎教授らと共同で、高温にある強磁性相のドメイン壁にらせん磁性体のキラリティー情報が保存されるキラリティーメモリ効果を発見しました。この結果は、非キラル相における欠陥などにあるキラル構造の重要性を示唆しており、一般的なキラリティー問題に一石を投じる結果となっております。
 本研究の詳細はPhysical Review Lettersに2021年4月28日(米国時間)に掲載されました。また、Editors’ Suggestionに選出されています。
 
 

詳細

 
 

図 キラリティーメモリ効果。らせん磁気構造のキラリティーが強磁性相では、ドメイン壁のキラリティーとして保存される。