プレスリリース・研究成果

巨大なスピンホール効果を示す非平衡銅合金を発見 〜低消費電力スピンオービトロニクス素子へ道〜

2020/10/15

発表のポイント

  • 非磁性合金におけるスピンホール効果(電流を流すと横方向にスピンが流れる現象)を、効率的なコンビナトリアル実験手法を活用して広い組成領域で一括評価。
  • 銅とイリジウムの合金において、巨大なスピンホール効果が現れる非平衡合金が存在することを発見。
  • エレクトロニクス素子製造プロセスとの相性が良いCu基合金において、これまでの重金属を主とするスピンホール効果材料に匹敵する性能を実証。

概要

 スピンの流れ(スピン流)を積極的に利用し、磁石の方向で情報を記憶するスピントロニクス素子が次世代デバイスとして期待を集めています。
 東北大学金属材料研究所の関剛斎准教授および高梨弘毅教授の研究グループは、物質・材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究拠点の内田健一グループリーダーの研究グループと共同で、材料の高速スクリーニング手法とスピンホール効果の定量評価技術を駆使し、新しいスピンホール効果材料を探索し、単体元素では極めて小さなスピンホール効果しか示さない銅(Cu)とイリジウム(Ir)から構成されるCu-Ir合金で、これまで見過ごされてきた組成領域にスピンホール効果材料の代表格であるPtに匹敵するほどの大きなスピンホール効果を出す非平衡合金が存在することを発見しました。
今回の成果は、非平衡合金の新たな可能性を切り拓いたことと、エレクトロニクス素子の製造プロセスとの相性が良いCu基合金において大きなスピンホール効果を実現できたことがポイントであり、スピンホール効果を動作原理とするスピンオービトロニクス素子の低消費電力化に貢献でき、素子開発がより加速するものと期待されます。
 本研究は、Communications Materialsに10月14日にオンライン公開されました。
 

詳細

 
 

図1 (a) コンビナトリアル成膜技術によって作製した組成傾斜膜の模式図。CuおよびIrのウェッジ膜を交互に積層させることで、膜面内での組成傾斜を実現している。この組成傾斜膜から成る2本のワイヤーを準備した。(b) スピンペルチェ効果の模式図。Cu-Ir合金に電流を流すと、スピンホール効果により電流と直交方向にスピン流が現れる。このスピン流と今回用いたY3Fe5O12磁性絶縁体基板の磁化とが相互作用することでワイヤーの面垂直方向に熱流が生じる。スピンペルチェ効果による温度変化の大きさはスピンホール角に比例している。