発表のポイント
- 水素が金属を壊れ易くするメカニズムを解明するために、水素の影響を直接“見る”ことに成功。
- 水素は金属内を動きながら金属内部構造を変化させる。この水素による金属内部構造の“経時変化”をナノスケールで観察することに成功。
- 本手法により、水素で金属が弱くなるメカニズムの解明が進み、水素エネルギー用インフラ材料の開発促進に寄与することが期待される。
研究概要
東北大学金属材料研究所の小山元道らは、電子顕微鏡(走査型電子顕微鏡:SEM)を用いて、水素が金属の内部構造に影響を与えている様子の経時変化をナノスケールで観察する手法を開発しました。
水素は金属を弱くします。特に高強度金属では水素の影響が顕著です。例えば、金属部材が水素ガスに曝されると水素原子が金属中に侵入し、金属が壊れやすくなるので、水素エネルギー社会のインフラ用構造材料に高強度金属を応用するときのボトルネックとなっています。このため、水素が金属を壊れやすくするメカニズムの解明が強く求められています。このメカニズム解明を阻む大きな原因の一つが“見る”ことの難しさです。水素は最小の原子なので、金属中で動き回り、ときには金属の外に飛び出してしまいます。このため、水素の動きに合わせて、刻一刻と変化する金属の“内部構造”を、“ナノスケール”で“時間”を気にしながら見る必要があります。
本研究では、電子チャネリングコントラストイメージング法という手法を用いて、水素添加した金属の内部構造の経時変化をナノスケールで見ることに成功しました。本手法は、他の手法と比べて対象とする試料形状の制約が小さいため、様々な形状の金属片中および負荷環境での水素の影響を見ることができます。より高強度かつ水素に強い材料を開発するため、本手法は水素関連研究全般に寄与することが期待されます。本研究の詳細はScience Advancesに2020年6月5日(米国時間)に掲載されました。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF:301KB]
- Science Advances [DOI: 10.1126/sciadv.aaz1187]
水素導入後の金属内部構造の経時変化。上から1、2、3時間経過後の像。