発表のポイント
- チタンとマンガンの複合酸化物の光の透過を調べたところ、ある方向から光を入射した場合と逆方向から光を入射した場合で、透過率に差が生じることが分かりました。
- 磁石としての性質を持たない物質でこの効果が見つかったのは初めてのことです。
- 磁石としての性質を持たないほうが表と裏のスイッチに必要な時間が短いため、今回の発見は光学透過率の超高速スイッチの新たな方法に展開される可能性があります。
概要
通常の物質では、内部を透過する光の進む向きを逆にしても透過率は変化しません。しかし、キラリティと磁化を併せ持つ物質では、光が進む向きを逆にすると透過率が変化します。この現象を「磁気キラル二色性」と呼びます。今回、東京大学の佐藤樹大学院生、有馬孝尚教授らのグループは、磁化を持たない物質でも磁気キラル二色性を示す可能性があると考え、実際に、チタンとマンガンの複合酸化物の内部を進む光の透過率を測定し、磁気キラル二色性の存在を明らかにしました。すなわち、この物質には表側と裏側の区別が存在することになります。さらに、電場と磁場をうまく作用させることで表と裏を入れ替えることにも成功しました。
今回の発見は、磁化が全くない物質においても、磁気キラル二色性という一種の磁気光学現象が出現しうることを明確に示すものです。現在のところ、磁気キラル二色性の存在が確認された物質はそれほど多くありません。本研究によって、磁気キラル二色性を探索する物質群の範囲が広がるほか、人工的な磁性超格子の設計指針にも役立つと期待されます。
本研究成果は、米国物理学会学術誌「Physical Review Letters」において、2020年5月27日付けオンライン版に公開されました。編集者の推薦論文にも選ばれています。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF:497KB]
- Physical Review Letters ウェブサイト [DOI: 10.1103/PhysRevLett.124.217402]
図1. マンガンとチタンの複合酸化物MnTiO3の磁気キラル二色性
6個の酸素(図中の小さな球)で作られるクラスターが右ねじ型か左ねじ型にねじれてマンガン原子(図中の大きな球)を囲んでいて、それぞれのマンガン原子が磁化(図中では棒磁石で表現)を持っている。右ねじ型にねじれた酸素クラスターと左ねじ型にねじれた酸素クラスターに囲まれたマンガン原子の磁化は逆を向いている。その結果、右から左に進む光(上)と左から右に進む光(下)で、透過率が異なる。