発表のポイント
- 分子性有機物質において、異常に大きく減衰した格子励起を初めて発見
- 減衰の原因として格子と電子誘電性の結合を新提案
- 分子性有機物質の電子誘電性の機構解明が期待
概要
東北大学金属材料研究所の佐々木孝彦教授、井口敏准教授、一般財団法人総合科学研究機構中性子科学センターの松浦直人副主任研究員、中尾朗子副主任研究員らは、仏国のラウエ・ランジュバン研究所、独国のミュンヘン研究用原子炉での中性子非弾性散乱実験により、分子性有機物質で、異常に大きく減衰した格子励起を世界で初めて発見しました。
この状態は、物質中を動きまわっているパイ電子が分子上に徐々に局在化する50-60K以下で始まり、さらに低温の27Kでパイ電子の電荷とスピンがそれぞれ秩序化すると同時に解消することを観測しました。このことは、パイ電子の動きと格子励起が密接に関係しあっていることを示しています。
また、通常の強誘電体とは異なり、格子の対称性が低下しない(格子の位置がずれていない)ことから、この物質が示す誘電性は、電荷やスピンの自由度により分極が発生する電子誘電性由来であることも明らかになりました。
本研究は、分子性有機物質における中性子非弾性散乱を用いた物性研究を加速する成果であり、米国の科学雑誌「Physical Review Letters」のオンライン版に7月10日付で掲載されました。本成果は2019年8月28日の科学新聞に掲載されました。詳細1: プレスリリース本文 [PDF:2.47MB]
詳細2: Physical Review Letters ウェブサイト [DOI:10.1103/PhysRevLett.123.027601]
図: 温度T=4K、中性子非弾性散乱で測定した格子励起シグナル(左)。波線で示したライン上に格子励起が存在している。実験で用いた分子性有機物質の単結晶試料(右上)とその構造(右下)。赤丸は二量体化した2つの分子によるユニットを示す。この二量体間は弱いバネでつながっているが、二量体中の分子同士は強いバネでつながっていて振動する(格子励起)。青丸は二量体内に閉じ込められたパイ電子を示し、青矢印は電子の持つスピン自由度(アップとダウン)を示している。二量体中に閉じ込められた後でも、電子には、どちらかの分子に偏る運動の自由度が残る。