概要
東北大学金属材料研究所附属強磁場超伝導材料研究センターでは、ドイツHelmholtz-Zentrum Dresden-RossendorfのS. A. Zvyagin研究員、米国National High Magnetic Field LaboratoryのD. Graf研究員、神戸大学研究基盤センターの櫻井敬博助教、大阪府立大学理学系研究科の小野俊雄准教授、東京工業大学理学院の田中秀数教授らとの国際共同研究において、圧力によってスピンS = 1/2三角格子反強磁性体Cs2CuCl4の結晶を歪ませることで、交換相互作用を精密にコントロールし、25テスラまでの強磁場下で電子スピン共鳴(ESR)という手法で調べることで、逐次的に現れる複数の新たな磁気相を発見しました。
三角格子反強磁性体では、全ての磁気相互作用を満足させる安定状態が存在しない幾何学的なフラストレーションと呼ばれる状態を持ち、多数の状態がせめぎ合っていることが知られており、小さな刺激で状態が劇的に変わることが予想されていました。特に、磁気の単位であるスピンが最小の1/2を取る場合は、量子揺らぎが大きく、この効果が増幅されます。しかし、これまで、その予想に対する系統的な実験による検証は殆ど行われていませんでした。本研究では高圧力と強磁場の2つの物質を制御するパラメータを組み合わせて変化させることで、三角格子反強磁性体に複数の逐次的な量子相転移を発現させることに成功しました。本研究成果は、2019年3月6日付けで英オンライン科学誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。
詳細1: プレスリリース本文 [PDF: 848KB]
詳細2: Nature Communications ウェブサイト [DOI: 10.1038/s41467-019-09071-7]
図. 三角格子に歪みを生じさせてフラストレーションを制御する高圧力と量子揺らぎを制御する強磁場を組み合わせて新たな量子相転移を発見し、電子スピン共鳴によって歪みによる交換相互作用の変化を精密に決定した。右は実験から得られた温度・圧力相図と交換相互作用の変化率。