発表のポイント
- 白金(Pt)層で挟んだコバルト(Co)とイリジウム(Ir)の積層構造において、上下Co層の磁石の方向(磁気モーメント)が反対を向いた人工反強磁性体を作製し、電流を流して上下から反対向きの電子スピン(磁気モーメントを回転させる力)を注入したところ、磁石の境界(磁壁)が移動する現象を観測し、そのメカニズムの実証に初めて成功しました。
- Co層の厚さを面内非対称にすることで、磁壁の運動に作用する内部磁場を新たに作り出し、小さな電流で速く磁壁を移動できることも発見しました。これは、省エネルギーで高速動作可能なスピントロニクスメモリの設計に向けた新しい道筋を提供する成果です。
概要
磁石の中に形成される磁区を情報担体とするスピントロニクス素子は、次世代エレクトロニクスを担うテクノロジーとして期待されています。素子の動作には磁壁を電流で移動させる必要があり、小さな電流で高速に磁壁を移動させる材料や技術が切望されていました。
東北大学大学院工学研究科の増田啓人大学院生(研究当時)、同大学金属材料研究所の山崎匠助教、高梨弘毅教授(研究当時、現:日本原子力研究開発機構)、関剛斎教授らは、2層のCoをIr中間層で反強磁性結合させてPt層で挟んだPt / Co / Ir / Co / Pt積層構造で、磁壁の移動について実験と計算の両面から調べました。上下のPt層から反対向きの電子スピンをCo層に注入したところ、電子スピンによるトルクが打ち消し合わずCo層に作用し磁壁を移動させました。さらに、Co層厚を傾斜させて非対称性を付与することで内部磁場を生成し、小電流で速い磁壁移動を実現しました。本成果は次世代スピントロニクスメモリの省エネルギー・高速動作の実現に大きく寄与するものと期待されます。
本研究成果は2025年10月17日15:00(インド標準時)に、総合科学誌 Advanced Scienceにオンライン掲載されました。
なお本成果は、東北大学学際科学フロンティア研究所の山根結太准教授、同大学電気通信研究所の土肥昂尭助教、東京大学大学院新領域創成科学研究科のRajkumar Modak特任助教、内田健一教授(物質・材料研究機構 上席グループリーダー 兼任)、日本原子力研究開発機構 原子力科学研究所 先端基礎研究センターの家田淳一グループリーダー、および独ヨハネス・グーテンベルク大学マインツのMathias Kläui教授との共同研究によるものです。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF: 582 KB]
- Advanced Science [DOI: 10.1002/advs.202514598]

図1. (a) Pt / Co / Ir / Co / Pt人工反強磁性体の積層構造の模式図および期待されるカー顕微鏡像のコントラスト。(b)細線に対し電流を左から右に流した場合と、右から左に流した場合のカー顕微鏡像。白い矢印が磁壁位置を示しており、パルス状の電流の印加回数(1回目から5回目)に依存して磁壁位置が移動している様子がわかる。
