プレスリリース・研究成果

鉄と窒素からなる磁性材料 熱を加える方向によって熱電変換効率が変化 ―特殊な結晶構造γ'型Fe₄Nによる熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋

2017/07/10

発表のポイント

  • 鉄と窒素という身近な元素から作製した磁性材料で、熱を加える方向によって熱電気変換効率が大きく変化することを新発見した。
  • 鉄と窒素の組み合わせに限らず、身のまわりにあふれた元素の組み合わせで同様の特性を持つ材料が作れることを示唆。
  • 磁石を用いた熱電変換デバイスの開発に応用することで、熱電変換効率を自在にかつ効率よく制御することが可能になる。
 

概要

 東北大学金属材料研究所の水口将輝准教授、高梨弘毅教授は、福島工業高等専門学校磯上慎二准教授(当時。現所属:国立研究開発法人物質・材料研究機構主任研究員)らグループとの共同研究によって、γ'型Fe4Nという特殊な結晶構造をもつ磁性金属の薄膜において、磁場中の熱電変換効果の一つ「異常ネルンスト効果」と呼ばれる熱磁気効果の大きさが、加える熱の方向に応じて大きく変化すること発見しました。

 風力や太陽光など身の回りのエネルギーを利用する環境発電の促進には、熱を電気に効率的に変換できる材料の開発が不可欠です。熱磁気効果をもつ磁性体は、縦方向の温度差を横方向の電圧に変換できるため、環境発電に適した材料として注目されていますが、効率的に発電に利用するためには、熱の方向と電力を取り出す方向をそれぞれ独立に設計・制御する技術が必要となり、開発が進んでいませんでした。
 そこで研究グループは、鉄と窒素という身の回りにあふれる元素の組み合わせから作製できるγ'型Fe4Nという特殊な結晶に着目しました。研究グループが作製した高品位なγ'型Fe4N薄膜結晶は、熱から電圧への変換効率が結晶に与える熱の勾配方向に強く影響されることを示しました。

 今回作製した結晶を用いれば、材料の方向を適切に選択するだけで、熱電効率を変化させることができます。そのため、発電素子設計に複雑な技術が不要となり、より効率的な熱電素子の開発、環境発電技術への幅広い応用が想定されます。また、これまであまり熱電変換素子などに活用されてこなかった窒化物薄膜ですが、高い耐食性・機械的強度をもつことから、酸化物薄膜に替わる新しい研究対象の材料としても期待されます。

 この研究成果は、Applied Physics Express(6月23日)に公開されました。

 

 詳細1: プレスリリース本文 [PDF:847KB]

 詳細2: Applied Physics Expressウェブサイト [DOI:10.7567/APEX.10.073005]

 

γ’型Fe4Nの結晶構造図と異常ネルンスト効果の測定方法