東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)/金属材料研究所のZhiyong Qiu(ジョン キュウ)助教と齊藤 英治教授らは、スピン流を用いて物質の磁性を観測することに成功しました。
スピン流とは、電子が持つ、自転に由来した磁石の性質であるスピンの流れのことを指します。近年のナノテクノロジーを利用して、磁石をナノスケール(10億分の1メートル)に加工することで、スピン流を作ることが可能です。スピン流は、電流と対比されスピンを使った次世代技術スピントロニクス)の基礎現象として、活発に研究されています。
さて、電流の流れ易さ(電気伝導度)を調べることで、物質の性質を金属、半導体、絶縁体と分類することができますが、スピン流の流れ易さ(スピン伝導度)では、物質の性質を調べることができないでしょうか?
今回、本研究グループは、スピンポンピングという技術を用いて、磁性絶縁体であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)から、反強磁性体である酸化コバルト(CoO)薄膜にスピン流を注入し、白金(Pt)により酸化コバルトに透過したスピン流を検出しました。こうして、反強磁性体中のスピン流の流れ易さを調べることで、厚さ数ナノメートルの超薄膜における磁気転移を代表とした磁気的物性を測定することに初めて成功しました。
従来、このような薄膜の磁性を捉えるためには、中性子散乱などの大型の設備が必要であり、さらに試料が薄膜であるため絶対量が少なく、測定することが大変困難でした。今回実証された測定法は超薄膜の磁性を探索する汎用的な新手法として、近年進展著しい反強磁性体)を利用したスピントロニクスの進展に貢献すると期待されます。 本研究成果は、2016年8月30日(英国時間)に英国科学誌Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーション)のオンライン版で公開されました。
詳細1: プレスリリース本文 [PDF:373KB]
詳細2: Nature Communications ホームページ [DOI:10.1038/ncomms12670]
実験セットアップの模式図とサンプルの電子顕微鏡写真