プレスリリース・研究成果

カゴメ金属の特異なホール効果の起源を解明 ―移動度スペクトル解析で捉えた高移動度キャリアの役割―

2025/08/05

発表のポイント

  • カゴメ(籠目)格子をもつ金属物質CsV3Sb5で観測される非単調なホール効果について、従来有力視されてきた異常ホール効果ではなく、極めて高い移動度(電子が速く動ける性質)をもつ少数のキャリア(電気を運ぶ粒子)からの寄与で説明できることを明らかにしました。
  • 本成果は、キャリアの数や種類を仮定せずに実験データを扱える「移動度スペクトル解析」を大規模フィッティング計算と組み合わせることで得られました。
  • 本研究で確立された解析手法は、複雑な電子構造をもつ物質にも広く応用できるため、今後の物性物理学や材料科学の研究において、非常に強力なツールとなることが期待されます。

概要 

東北大学金属材料研究所の木俣基 准教授(研究当時、現:日本原子力研究開発機構)は、東京大学大学院新領域創成科学研究科の劉蘇鵬大学院生、六本木雅生大学院生(研究当時/現在:理化学研究所研究員)、石原滉大助教、橋本顕一郎准教授、芝内孝禎教授らの研究グループ、同大学物性研究所、日本原子力研究開発機構、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、仏エコール・ポリテクニークとの共同研究により、カゴメ格子と呼ばれる構造をもつ金属物質「CsV3Sb5」で観測される非単調なホール効果の起源を明らかにしました。従来この現象は、ループ状の渦電流による「異常ホール効果」と呼ばれる特殊な電子の振る舞いによるものと考えられてきました。しかし本研究により、非常に高い移動度をもつ少数キャリアが特異なホール効果に大きく関与していることが明らかになりました。この成果は、「移動度スペクトル解析(μスペクトル解析法)」と大規模フィッティング計算を組み合わせることで、これまで解析が困難であった多バンド系物質(金属内に複数のキャリアが存在する物質)におけるキャリアの定量的評価が可能になったことで達成されました。この解析手法は、電子構造が複雑な物質にも広く応用できるため、今後の物性物理学や材料科学の研究において、非常に有用なツールとなることが期待されます。

本研究成果は2025年7月30日付け(現地時間)で、米国科学誌『Physical Review Letters』にオンライン掲載され、Editors' Suggestionに選出されました。

詳細

 
図1:カゴメ金属CsV3Sb5の結晶構造
3次元的な結晶構造(左)とバナジウム(V)からなるカゴメ格子面(右)。