プレスリリース・研究成果

複雑なナノスピン構造に由来する物性を予測する 第一原理計算手法を開発 ―次世代高速・低消費エネルギーのスピントロニクス素子開発に貢献―

2025/03/13

発表のポイント

  • 磁性体では、スピンと呼ばれる電子の自由度が規則性を持って並びます。このスピンが同一平面上で並ばず、三次元的に配向する非共面スピン構造に由来する物性は、次世代のスピントロニクス素子への応用が期待されていますが、その微視的、定量的な計算は非常に難しいことが知られています。
  • 第一原理計算に基づく新手法を開発し、ナノスケールの非共面スピン構造を持つ物質の電子状態を予測できるようにしました。
  • 電子の振る舞いを解析することで、非共面スピン磁性体の物性を数値的に予測できるようになり、革新的スピントロニクス材料の探索や開発への応用が期待されます。

概要 

 近年、非共面スピン構造を持つ物質はスピントロニクス研究で重要な位置を占め、有望な次世代材料として大きな期待を集めています。これまで、この分野では実験研究が急速に進む一方で、理論的な解析はまだ簡略化されたモデルに頼っており、物質の個性を反映した実験で得られた経験的なパラメータを使わずに近似的に解く非経験的予測手法の開発が求められていました。しかし一般に非共面スピン構造はサイズが大きく数値シミュレーションに膨大な計算資源が必要であるため、解析が非常に難しくなっていました。

 東北大学金属材料研究所の陳曉邑助教(理化学研究所創発物性科学研究センター客員研究員)、東京都立大学大学院理学研究科の野本拓也准教授(理化学研究所創発物性科学研究センター客員研究員)、東京大学大学院工学系研究科のマックス・ヒルシュベルガー准教授(理化学研究所創発物性科学研究センターユニットリーダー)と東京大学大学院理学系研究科の有田亮太郎教授(理化学研究所創発物性科学研究センターチームリーダー)は密度汎関数理論に基づき、大規模スピン構造を持つ物質の電子状態を計算できる新たな第一原理計算手法を開発し、非共面スピンを持つ磁性材料の物性について高精度な数値予測を可能にしました。また計算結果を解析し、微視的な電子波動関数と巨視的な物理現象との関係も明らかにしました。

 本研究成果は、2025年3月11日(米国東部時間)に米国物理学会(APS)が発行する学術誌Physical Review Xに掲載されました。

 

詳細

 

図1. 本研究の概念図。非共面スピン構造をシミュレーションする新しい手法を開発し、通過する電子との特有な相互作用を正確に予測できるようになりました。 右上の図は非共面スピン構造の一種であるスキルミオン結晶構造。