発表のポイント
- 近年本学発で開発され実用化された生体インプラント材用チタン(Ti)合金に少量の錫(すず:Sn)を添加すると、なぜ硬くて脆い欠点を解決できるかの理由を明らかにしました。
- β(ベータ)型Ti合金には、硬くて脆いω(オメガ)相が出現しやすい傾向がありますが、Sn元素単独ではω相を抑制する効果はほとんどありません。しかし、ニオブ(Nb)やバナジウム(V)等のβ安定化元素と共に添加するとω相の出現を完全に抑えることができます。本研究ではその機構を明らかにしました。
- 近年研究が盛んなハイエントロピー材料においてよく見られるカクテル効果を如実に発現している好例であり、合金設計においては多体(多元素)間相互作用が極めて重要であることを示しています。
概要
生体インプラント材料として開発されたβ型Ti合金(Ti-Nb-Sn合金:TNS合金)には、有害なω相を完全に抑制するために少量のSnが添加されています。しかし、純チタンに対するSn添加効果からはω相の抑制は単純には予想できず、Sn添加によるω相抑制効果の発現機構は不明な点が残っていました。
東北大学金属材料研究所の岡本範彦准教授と市坪哲教授らは、Ti-V系のモデル合金を対象として、Sn添加が相変態挙動と相安定性に与える影響を実験および理論の両側面から系統的に調査することによって、Ti元素―β安定化元素(V)―Sn元素間の多体相互作用およびSn原子のアンカー効果が相乗的に働き、ω相の出現をほぼ完全に抑え込むことができていることを明らかにしました。これにより生体材料に限らず合金設計において多体的な相互作用を考慮する必要が重要であることを示したと言えます。
本研究成果は2024 年4 月29 日付(現地時間)で材料科学分野の専門誌Acta Materialiaにオンライン公開されました。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF: 1.1MB]
- Acta Materialia [DOI: 10.1016/j.actamat.2024.119968]
図1. Ti-21%V合金母相内に整合析出した無拡散型等温ω相の原子分解能走査透過電子顕微鏡像。ランダム固溶体であっても統計的にβ安定化元素(V)が少ない局所領域が存在し、室温下でも無拡散型等温ω変態が進行してしまう。