発表のポイント
- 空間反転と時間反転の対称性が逐次的・自発的に破れる物質を発見しました
- カイラル結晶構造が出現し、そのもとで一次元反強磁性イオン鎖が三角格子を介してつながる反強磁気構造を、放射光X線散乱・中性子散乱によって明らかにしました
- トポロジカル電子状態を示しうる新奇な物質を提案するものです
概要
東北大学金属材料研究所・高等研究機構の南部雄亮准教授は、茨城大学大学院理工学研究科の下田愛海さん(研究当時大学院生、現在:キオクシア株式会社 勤務)、茨城大学原子科学研究教育センターの岩佐和晃教授を中心とするグループらとともに、Remeika相化合物のうちネオジム・ロジウム・錫(スズ)を含むNd3Rh4Sn13が示す結晶構造相転移と磁気秩序の詳細を明らかにし、空間反転と時間反転の対称性が逐次的・自発的に破れる相転移を発見しました。
結晶中の原子配列の対称性は物質の性質を決定づける因子です。例えば、原子が存在する物質領域とその外側の真空の境界で空間反転対称性が破れた場合、物質内部が絶縁体であっても、境界表面では電流が生じるというディラック電子状態が知られています。また、右手と左手、あるいは右ネジと左ネジのような対掌性の関係にある構造は、鏡に映る実像と虚像の関係にありますが、右と左それぞれは反転対称性が失われています。このようなカイラル対称性においてもワイル電子と呼ばれる特殊な電子状態が現れ、実効的には質量のない電子が運動する半金属状態が期待されています。
本研究グループは、このような空間反転対称性の破れた結晶構造に自発的に相転移し、さらに磁気秩序によって時間反転対称性も破れうる物質を開拓すべく、Remeika相化合物Nd3Rh4Sn13を詳しく調べました。その結果、この物質がカイラル対称結晶構造に相転移し、さらに反強磁気秩序化することを明らかにしました。特に、ネオジムイオンの一次元鎖状格子の磁気モーメントが反強磁気状態を取りつつ、隣接する一次元鎖と三角格子を介して連結して三次元構造をとるという特徴を明らかにしました。このような対称性の破れは新たなトポロジカル電子状態を示唆するものと期待できます。
本成果は、Physical Review B 誌 のEditors’ Suggestionとして2024年4月16日付で公開されました。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF: 678 KB]
- Physical Review B [DOI: 10.1103/PhysRevB.109.134425]
図1: (a) 360 K (87℃)と(b)200 K (マイナス73℃)で測定した放射光X線データ。低温で新しい回折ピークが現れ、結晶構造が変化したことがわかる。(c) (d) この放射光X線回折実験によって決定した結晶構造(VESTAによる描画)。(c)を左手に対応させると、(d)は右手に相当する対掌のカイラル対称結晶構造になっている。ネオジムは2種類(緑色のNd1と青色のNd2)存在し、それらが一次元的に並んでいる鎖が左回り、あるいは右回りで配置するように見える。左右それぞれの結晶構造は空間反転対称性が破れている。