発表のポイント
- 通常、超伝導は磁場に弱く、強磁場中では超伝導状態は壊されてしまいます。強い磁場中でも安定な超伝導体を開発することは、超伝導線材や超伝導量子デバイスの開発において重要な課題となっています。
- ウランを含む超伝導体ウランテルル化物(化学式UTe2)では、むしろ強磁場中で超伝導が安定化し、その結果、超伝導が壊れる磁場の値(=臨界磁場)が従来の理論値の10倍にも達することが発見されていました。
- 今回、物質内部をミクロな視点で調べることができる核磁気共鳴(NMR)法を用いて、高い臨界磁場を実現する超伝導のメカニズムを探りました。
- その結果、強い磁場をかけることで物質内の磁気的ゆらぎが増大し、それによって超伝導を生み出す電子対の結合が強まり、高い臨界磁場が実現していることがわかりました。
概要
金属材料研究所の青木大教授は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター強相関アクチノイド科学研究グループの徳永陽グループリーダーら、国立大学法人京都大学理学研究科の石田憲二教授らと共同で、スピン三重項超伝導の候補物質であるウラン系超伝導体において強磁場中での核磁気共鳴(NMR)実験を行い、高い臨界磁場を示す超伝導のメカニズムを解明しました。
ウランテルル化物(UTe2)は、2019年に米国の研究グループによって初めて超伝導が報告され、以来、新しいスピン三重項超伝導体の候補物質として国際的な注目を集めています。通常の超伝導体では、強い磁場がかかると超伝導が壊されるのですが、UTe2は15テスラ以上の強い磁場で逆に超伝導が安定化し、高磁場超伝導と呼ばれる新しい超伝導が出現します。その結果、臨界磁場は従来の理論値よりも10倍も高い35テスラにも達します。
今回、徳永グループリーダーらの研究チームは、磁場によって超伝導が安定化し、高い臨界磁場が実現するメカニズムを解明すべく、物質内部の電子状態をミクロな視点で探ることができる核磁気共鳴(NMR)法による測定を行いました。その結果、磁場をかけることによって物質内の磁気的な揺らぎが、ちょうど超伝導が安定化し始める15テスラ付近から急激に増大することを発見しました。このことは磁気的な揺らぎの増大によって超伝導を形成する電子対の引力が増加し、それによって超伝導が安定化していることを示しています。
今回の研究は、物質の持つ磁性と超伝導の密接な関係を明らかしたものです。その原理の応用によって、今後、ウラン系以外の化合物でもより高い臨界磁場を持つ超伝導体が開発できると期待されます。高い臨界磁場を持つ超伝導体の開発は、高性能の超伝導線材や超伝導を使った量子デバイスの開発にとって重要であり、超伝導技術の応用分野を拡げることに繋がります。
この研究成果は、2023年11月29日に米国物理学会誌「Physical Review Letters」のオンライン版にEditors' Suggestion(注目論文)として掲載されました。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF: 1.1 KB]
- Physical Review Letters [DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.131.226503]