発表のポイント
- 元素を置換する新たなエレメントミューテーション法と第一原理計算を用いて、アルカリニクトゲン化合物が太陽電池材料として有望であることを発見しました。
- その中でも無害で安価な元素で構成されるリン化ナトリウムを実験的に合成し、バンドギャップが計算による値と一致することを確認しました。
概要
太陽電池は環境に優しいエネルギー源として過去数十年にわたり高い注目を集めてきました。太陽電池の中核をなす光を電気に変換する材料には、主に元素周期表14族(Ⅳ族)のシリコンが使われてきました。しかしシリコンは電気への変換効率が低いため代替材料が長年望まれてきました。その中には、実用化に至った13族-15族(Ⅲ-Ⅴ族)化合物のヒ化ガリウム、CIS系(銅、インジウム、セレンを主な原料とする材料)、12族-16族(Ⅱ-Ⅵ族)化合物のテルル化カドミウムや、最近ではハロゲン化鉛系ペロブスカイトが含まれています。しかしながらそれらの材料は、ヒ素、セレン、カドミウム、鉛等の有害元素を含んでおり、依然として無害でさらに安価な元素で構成される太陽電池材料が望まれています。
東北大学金属材料研究所の熊谷悠教授と森戸春彦准教授、多元物質科学研究所の鈴木一誓講師と小俣孝久教授らの研究グループは、1873年に発見された人類最初の固体太陽電池材料である16族のセレンを手がかりに、新たなエレメントミューテーション法と第一原理計算を駆使して太陽電池材料の探索を行いました。セレンは太陽電池材料として、150年にわたり研究されて来ましたが、その効率は6.5%と実用化されている材料には遠く及びません。この原因として、バンドギャップが大き過ぎる事が考えられます。そこでバンドギャップをより最適な値に調整するため、16族のセレンを15族のニクトゲンに置き換え、足りない電子を補うために、格子間にアルカリ金属(1族)を導入する従来とは異なるエレメントミューテーション法を適用しました。その結果、1族-15族化合物のアルカリニクトゲン化合物が適切なバンドギャップを有し、さらに軽い有効質量と高い光吸収係数を持つため、太陽電池材料として有望であることを発見しました。またその中でも特にリン化ナトリウム(NaP)が無害で安価な元素で構成されており、太陽電池材料に適していることを見出しました。そして計算による予測を実証するため、リン化ナトリウムを合成してバンドギャップを測定したところ、計算値と良い一致を示しました。太陽電池材料は、長年シリコンが主流でしたが、リン化ナトリウムは安価かつ無害な元素で構成されているため、実用化となれば社会に及ぼす影響は極めて大きく、今後、実用化に向けたさらなる開発が期待されます。
本研究成果は、2023 年 10月 3日(米国夏時間)に、米国物理学会誌PRX Energyにオンライン掲載されました。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF: 1.1MB]
- PRX Energy [DOI: 10.1103/PRXEnergy.2.043002]