セント・アンドリュース大学のフィル・キング教授とマンチェスター大学のモハマド・サイード・バハラミー博士が率いる国際研究チームは、バレートロニクスの分野で重要な発見をしました。 この研究は、東北大学金属材料研究所のロディオン・ベロスルドフ准教授と共同で、最先端の分光法と東北大学計算材料学センター(CCMS)のスーパーコンピュータ「MASAMUNE」を用いて行った理論シミュレーションにより、遷移金属ダイカルコゲナイドの表面層における巨大なバレー選択的イジング結合を明らかにしたもので、「Nature Materials」に発表されました。
バレートロニクスは、固体中の電子のバレー自由度を利用して情報処理を行うことを目的とした、物性物理学および材料科学における新たな技術です。谷(バレー)の形をしたエネギーバンドを有する物質において、スピン状態やエネルギーに対応した運動量空間での電子の動きを選択的に制御することで、性能やエネルギー効率を高めた新しいタイプの電子デバイスを実現することができます。
研究チームは、角度分解光電子分光法を用いて半金属V1/3NbS2の表面電子構造を調べたところ、NbS2層間に挿入されたバナジウムイオンによって、NbS2層のバレースピン分極が交互に増大・消失するパターンを発見し、その状態がNbS2に250Tの磁場をかけたのと同等であることを突き止めました。研究チームは、V1/3NbS2のこの挙動をモデル化し、そのメカニズムを探るために、スーパーコンピュータ「MASAMUNE」を用いた大規模シミュレーションを実施しました。このシミュレーションにより、実験結果を再現することに成功し、局所磁気モーメントを遍歴状態に結びつけることが、V1/3NbS2、および、同種の物質におけるバレースピン結合を制御するための有力な方法であることが明らかになりました。
今回の発見は、バレートロニクスを大きく前進させるものであり、高性能コンピュータからエネルギー効率の高いエレクトロニクスまで、幅広い用途に利用できる高度な電子デバイスの開発への新たな可能性を開くものです。
詳細
- Nature Materials [DOI: 10.1038/s41563-022-01459-z]