発表のポイント
- X線自由電子レーザーを利用したパルス強磁場下回折実験を銅酸化物高温超伝導体の単結晶に対して行いました。
- 超伝導体には2種類の電荷密度波があり、超伝導と共存する電荷密度波は、強磁場で誘起される渦糸液体状態で安定化することを発見しました。
- 高い超伝導転移温度をもつ銅酸化物における電荷密度波と超伝導の普遍的な関係を解明することに貢献すると期待されます。
概要
高い温度で電気抵抗ゼロの超伝導状態になる物質では、常伝導状態から転移した超伝導状態が電荷密度波 (Charge Density Wave; CDW)と密接な関係にあることが、これまでの研究で分かってきました。しかし2種類のCDWが発見されており、それらが超伝導転移温度とどのような関係にあるかは、明らかにされていませんでした。今後、さらに転移温度の高い超伝導物質を開発するため、CDWの詳しい性質を調べることが課題でした。
層状銅酸化物の超伝導相では電荷密度波が共通して見られ、超伝導およびスピン密度波 (Spin Density Wave; SDW)と密接な関わりがあることが知られています。銅酸化物層の単層構造を持つ超伝導物質のランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、銅(Cu)酸化物のLa2-xSrxCuO4(LSCO)では、2種類のCDWの存在が示されています。一つは、スピン密度波と空間的に共存した長距離秩序CDW(CDWstripe)で、もう一つは、SDWを伴わない短距離秩序CDW(CDWSRO)です。現在、超伝導発現機構のおけるCDWの役割を解き明かすため、性質の異なるCDWの素性の解明に注目が集まっています。
東北大学金属材料研究所の野尻浩之教授と藤田全基教授らの研究グループは、超伝導体であるLa1.885Sr0.115CuO4のCDWの素性を解明するために、24テスラ(磁束密度の単位)までのパルス磁場を印可した条件下で、X線自由電子レーザーによる回折実験を行いました。その結果、絶対温度6.5 ケルビンの無磁場中では2種類のCDWが存在し、超伝導と共存するCDWSROからのX線散乱強度が、強磁場で誘起される渦糸液体状態になると突然増加することを見出しました。 この結果は、CDWSROが渦糸液体状態で安定化することを示しており、CDWSROと動的な渦糸に強い結合があることを意味します。今後、高い超伝導転移温度を持つ物質の設計指針に活かされ、エネルギー問題や地球温暖化問題の解決に貢献すると期待されます。
本研究内容は、2023年2月9日(現地時間)にNature Communicationsにオンライン掲載されました。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF: 1.16MB]
- Nature Communications [DOI: 10.1038/s41467-023-36203-x]