プレスリリース・研究成果

二酸化炭素の吸着で磁石になる多孔質材料を開発 ~ガス吸着に伴う構造変化に起因する磁気相変換は世界初~

2023/01/27

発表のポイント

  • 二酸化炭素の吸着により、磁石でない状態(反強磁性体)から磁石(フェリ磁性体)へと変換可能な層状多孔性材料の開発に成功しました。
  • 二酸化炭素吸着に伴う層間距離の伸長により、磁石層間の磁気相互作用が反転し、磁石へと変化することを明らかにしました。
  • ガス吸着に伴う構造変化のみに起因する磁気相変換は世界初であり、他の層状構造を持つ磁性材料への本機構の応用が期待されます。

概要  

活性炭や珪藻土、シリカゲルなどの「多孔質材料」は、微細な大きさの空孔を持つ材料で、様々な物質を吸着しやすい性質を持ちます。この性質を活かして、日常生活では脱臭剤や乾燥剤などで身近に使われ、また工業的には物質の吸着・分離などで幅広く応用展開されています。

国立大学法人東北大学金属材料研究所の高坂亘准教授と宮坂等教授の研究グループは、近畿大学理工学部の杉本邦久教授および公益財団法人高輝度光科学研究センターの河口彰吾主幹研究員との共同研究により、二酸化炭素の吸脱着で磁化のON−OFFが可能な多孔性材料の開発に成功し、その磁気相変換の機構が層状磁石の層間構造変化によることを明らかにしました。一般的なガス分子の吸着に伴う構造変化のみで磁気相を変換する磁石は初めての例です。

今回開発した材料は分子性多孔性材料の一種で、磁石として機能する二次元層が連なった構造を持ち、その層の間にガス分子を出し入れできるのが特徴です。元々、この分子性多孔性材料は反強磁性体と呼ばれる磁気秩序を示し、一般的な磁石としての性質を示しませんが、二酸化炭素の吸着により磁石となる(磁石になる相転移温度は76 K)ことを確認しました。逆にこの材料は、真空加熱処理で二酸化炭素を脱離させることにより、元の反強磁性体へと戻ります。本現象は、二酸化炭素の吸着により化合物の層間距離が伸長し、それに伴い磁石層間の磁気相互作用が反転することで生じたものです。一般的にどこにでも存在するガス分子の吸着に伴う構造変化のみに起因する可逆磁気相変換はこれまで例はありません。磁気相転移温度はまだ低いですが、「構造変化」は従来の機構に比べると単純な機構であることから、層状構造を持つ他の磁性材料へ幅広く応用可能であり、これを利用した分子認識磁石センサーや分子応答磁気ジャンクション等、今後の発展が期待されます。

本研究成果は、2023年1月25日(現地時間)に、英国王立化学会誌「Chemical Science」に正式にオンライン掲載されました。

詳細

 

図 二酸化炭素(CO2)の吸着で磁気相を変える分子多孔性材料