プレスリリース・研究成果

数学の原理で高周波の新型音響導波路を開発 ~超低エネルギー損失な次世代高周波フィルタやセンサへの応用目指す~

2023/01/04

発表のポイント

  • 数学のトポロジーの原理を応用した超低エネルギー損失の新型音響導波路を実現するため、物質表面にナノスケール(ナノは10億分の1)の周期構造を作製することに成功しました。
  • 高周波数のギガヘルツ帯域において導波路として機能することを確認しました。
  • 既存の表面弾性波デバイスの大幅な高機能化や量子技術への応用が期待されます。

概要  

音波は、空気や物質の振動が波として伝わる現象です。中でも物質の表面を伝わっていく音波は「表面弾性波」と呼ばれ、これを用いた電子素子に表面弾性波デバイスがあります。表面弾性波デバイスは特定周波数の電気信号のみをよく通すため携帯電話の周波数フィルタとして用いられたり、また音波の伝わり方が表面状態に敏感である性質を使ってセンサなどに利用されたりしています。しかし表面弾性波デバイスのエネルギー損失によって、大きな電力消費を伴うことがしばしば問題となっていました。

東北大学金属材料研究所の新居陽一准教授と小野瀬佳文教授は、数学分野のトポロジーの概念をもとにして物質の表面に特殊な音波の導波路を実現しました。この導波路は、表面弾性波デバイス上に組み込むことができ、またトポロジーの活用により原理的には極限まで散逸(熱などへの変化によるエネルギー損失)が抑制される性質を持ちます。したがって本成果で得られた導波路を利用すれば、超低消費電力の表面弾性波デバイスの実現につながると期待できます。これは例えば、携帯電話のバッテリー持続時間を大幅に延ばせるなど、電子機器の高機能化に貢献できると考えられます。また表面弾性波は量子コンピューティングの要素技術としても着目されていますが、今回の導波路の持つ性質も大いに役立つことが期待できます。本研究は米国物理学会の応用物理学専門誌Physical Review Applied誌のEditor’s suggestionに選定され、2023年1月3日10:00(米国東部時間)に同誌に掲載されました。

詳細

 

図1.本研究で実現したトポロジカル音響導波路と実験概念図。右側に金属の微細周期構造を作成し、左から伝搬してきた表面弾性波(赤と白の縞々)を走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡で可視化する。緑で示しているのは、走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡のカンチレバーで、これが表面上を移動することで表面弾性波の波面を可視化することができる。上側(青色)と下側(茶色)の金属パターンは異なるトポロジーを持っており、これによって境界に沿って伝搬する特殊な表面弾性波が存在する。