プレスリリース・研究成果

強磁場発生装置を用いない量子抵抗標準素子の開発に成功 - トポロジカル絶縁体を応用、国家計量標準と同等精度の電気測定がより手軽に -

2021/12/14

発表のポイント

  • 新材料トポロジカル絶縁体を応用することで、強磁場発生装置が不要な量子抵抗標準素子を開発
  • 素子の品質向上により安定性を大幅改善、国家計量標準と同等の精度を達成
  • 小型化で利便性向上、さまざまな現場で最高精度の精密電気計測が可能に

概要 

 国立大学法人 東北大学 金属材料研究所は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 物理計測標準研究部門、国立研究開発法人 理化学研究所 創発物性科学研究センター、国立大学法人 東京大学 大学院工学系研究科と共同で、強磁場発生装置を用いることなく電気抵抗の精密測定(8桁の精度)を可能にする新型量子抵抗標準素子を開発した。
 電気抵抗は、電流の流れにくさを反映した物理量である。現在、異なる国や地域においても抵抗の測定値にずれが生じないように、物理現象「量子ホール効果」により電気抵抗の値が量子化抵抗値と呼ばれる一定値をとる量子ホール素子を抵抗測定の基準(抵抗標準)として採用している。量子ホール効果は強磁場下で発現する現象であるため、超伝導電磁石などの大型で高価な強磁場発生装置(概要図(右))を用いる必要があり、手軽な運用が難しかった。このため、強磁場を用いずに利用可能な抵抗標準の開発が世界各国で進められていた。今回、2016年ノーベル物理学賞の受賞理由の一つである、新材料トポロジカル絶縁体において発見された弱い磁場下でも量子化抵抗値を示す現象(量子異常ホール効果)に着目した。この新材料を応用し、ホームセンターなどでも安価に入手でき、利用が容易な小型磁石により発生した弱い磁場を用いて国家計量標準と同等な8桁の精度を持つ量子抵抗標準素子を実現した(概要図(左))。大型・高価で取り扱いの難しい強磁場発生装置が不要になったことにより、最高精度の抵抗標準の小型簡便化が可能になり、民間企業を含めたさまざまな現場での使用が期待される。なお、この技術の詳細は、2021年12月13日(英国時間)にNature Physics誌にオンライン掲載された。
 

詳細

 

図: ((左)小型磁石を用いる新型量子抵抗標準素子、(右)従来必要だった強磁場発生装置との比較