発表のポイント
- 原子力施設において、α線を放出する粒子の大きさの測定は作業者の内部被ばく評価に必要ですが、これまで作業現場でリアルタイムに測定できませんでした。また、従来の手法ではα線とその他の線種の放射線との識別ができないことが課題でした。
- 原子力機構は東北大学、三菱電機と共同で、医療分野で開発が進められている技術を応用し、16μmの位置分解能で一つ一つのα線のみをリアルタイムに可視化できる原子力用超高位置分解能α線イメージング検出器を、世界に先駆けて開発しました。
- これにより、作業現場でのα線を放出する粒子の大きさの迅速な評価が可能になり、原子力発電所の廃止措置や核燃料施設の安全性の向上につながると考えます。
- 今後は、本装置を様々な試料に適用することで精度の向上を図ります。さらに、福島第一原子力発電所の実試料の測定に適用し、作業現場の内部被ばく線量評価や放射線安全に貢献していきたいと考えています。
- 本件は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業-課題解決型廃炉研究プログラム-」で実施されました。
概要
国立大学法人東北大学(総長 大野英男、以下、「東北大学」)未来科学技術共同研究センターの黒澤俊介准教授、山路晃広助教(両者とも 東北大学 金属材料研究所兼務)は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 (理事長 児玉敏雄、以下、「原子力機構」) 福島研究開発部門 福島研究開発拠点 廃炉環境国際共同研究センター 遠隔技術ディビジョン の森下祐樹研究員および三菱電機株式会社(以下、「三菱電機」)先端技術総合研究所 センサ情報処理システム技術部光電磁センサグループ 林真照 グループマネージャー、東哲史主席 研究員、笹野理 研究員、牧田泰介研究員と共同で、世界初の、原子力用超高位置分解能α線イメージング検出器の開発を行いました。
原子力施設などにおいて、どの程度の大きさのα線を放出する粒子が作業場所に存在しているかを知ることは作業者の内部被ばく評価に必要です。これまでイメージングプレート1)などが用いられてきましたが、これらの検出器ではリアルタイムの測定ができませんでした。また、イメージングプレートはα線以外の放射線にも感度を有するため、α線とその他の線種の放射線との識別が必要でした。
原子力機構は東北大学、三菱電機と共同で、医療分野等で開発が進められているα線イメージング検出器を基に、超高位置分解能α線イメージング検出器を開発しました。本装置では、α線のみを検出するために、極めて薄いシンチレータ2)と電子増倍CCDカメラ、光学顕微鏡を組み合わせました。実際にプルトニウム(Pu)3)試料に適用したところ一つ一つのα線をリアルタイムに可視化することに成功しました。また、α線の位置分解能4)として、16μmが得られ、従来のイメージングプレート(25μm)を上回る性能が確認できました(図2)。
本装置では一つ一つのα線位置が可視化できるため、そのα線の数から個々のプルトニウム粒子の計数率を直接的に評価し、 粒子の大きさ(等価粒子径5))を求める手法も考案しました。これにより、作業現場でリアルタイムにプルトニウム粒子の粒径分布6)の評価に応用することが可能になると考えます。
今後は、本装置を様々な試料に適用することで精度の向上を図り、東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の実試料の測定に適用し、作業現場の内部被ばく線量評価や放射線安全に貢献していきたいと考えています。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF: 1.26MB]
- Scientific Reports [DOI: https://www.nature.com/articles/s41598-021-84515-z]