発表のポイント
- ハイエントロピー化を意図的に促進した金属ガラスにおいて、熱量変化と粘性変化でそれぞれ測定される2つのガラス遷移温度の密接な対応関係が崩壊する「デカップリング現象」を確認しました。
- この研究成果は、ガラス遷移現象の根本的な解明に大きなヒントを与えるものです。
研究概要
固体物理・材料科学における未解決問題として知られるガラス遷移現象は、急冷中の過冷却液体が熱力学的に安定な結晶固体へ凝固せず、長範囲規則性を持たないガラス固体に凍結する現象であり、その根本的な理解に向けて世界中で研究が進められています。金属ガラスは、高強度、高靭性、優れた軟磁性などで知られる一方で、構成原子が異方性の少ない金属結合によって、ほぼ無秩序に凝集した簡単な構造モデルで表されるため、ガラス遷移に関する基礎研究の対象材料としても大いに注目されています。
東北大学金属材料研究所のジャン・ジン特任助教と加藤秀実教授らの研究グループは、米国ジョンズ・ホプキンス大学の陳明偉教授(東北大学材料科学高等研究所・主任研究者を兼任)らのグループと共同で、金属ガラスのハイエントロピー化を意図的に促進すると、比熱(熱力学)と粘性率(動力学)の変化から検出される2つのガラス遷移温度の間に存在する密接な対応関係が崩壊する“デカップリング現象”が生じることを初めて明らかにしました。これまでの常識に収まらない今回の実験結果は、ガラス遷移現象の根本的な理解に向けて重要なヒントを与えると考えられます。
この研究成果は、英国科学雑誌「Nature Communications」に英国時間6月22日に掲載されました。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF: 1.09MB]
- Nature Communications [DOI: 10.1038/s41467-021-24093-w]