概要
国立大学法人東北大学と公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)は、X線磁気円二色性(X-ray Magnetic Circular Dichroism: XMCD)と呼ばれる磁気光学効果が、強磁性やフェリ磁性など磁化を有する磁性体のみならず、磁化ゼロの状態にあっても特定の磁気秩序を有する反強磁性体には観測され得ることを理論的に明らかにしました。XMCDは1987年にドイツのGisela Schütz(ギゼラ シュッツ)博士が放射光を用いて初めて実験的に観測して以来、実験と理論の両面から多くの研究が行われました。さらに、放射光施設の光源性能が飛躍的に向上したことでXMCDによる磁化検出感度や精度が大幅に向上し、現在ではスピントロニクス材料や永久磁石などの磁性研究に不可欠な先端計測技術へと進化しています。これまで研究者の間では、XMCDについて、「磁化した磁性体と円偏光X線の相互作用により観測される磁気光学効果」との説明がされていましたが、今回の理論研究によって磁化を持たない磁性体でもXMCDが観測され得ることが分かり、「例外を除けば..」と追記することが必要になりました。Schütz 博士がXMCDの初観測に成功してから30年以上の歳月を経て、これまでの常識が覆されたといえます。この「例外」は、正三角形の頂点に磁性原子を配置した特殊な反強磁性秩序を仮定し、かつ、その磁気モーメントが扁平に拡がる電子雲のスピンから生じるというモデルを立てて見出しました。このように非常に特殊な状況を仮定する必要がありますが、当研究グループでは、既存物質のなかにも候補となる物質があると考えており、近い将来に実験的に確認されることを期待しています。
本成果は、JASRI 雀部 矩正 博士研究員、東北大学金属材料研究所 木俣 基 准教授、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS) 中村 哲也 教授による共同研究の成果として、米国物理学協会の学術雑誌「Physical Review Letters」オンライン版に4月16日(米国東部時間)掲載されました。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF: 1.26MB]
- Physical Review Letters [DOI: 10.1103/PhysRevLett.126.157402]
図1 代表的な磁性体における原子磁石の並び方の例。上段は磁場を印加しない場合の (A)強磁性体、(B)フェリ磁性体、(C)反強磁性体、(D)常磁性体の例。たとえば、常温で純鉄は強磁性体、フェライト磁石はフェリ磁性体、酸化マンガンは反強磁性体、アルミニウムは常磁性体である。下段は磁場を印加した場合の原子磁石の並び方。磁性体の種類によって、磁化が異なる様子を示している。