プレスリリース・研究成果

固体中の電子の軌道を曲げる新しい機構の発見 -非共面スピン集団がもたらす巨大電子散乱-

2021/01/13

発表のポイント

  • 従来の機構では説明できない巨大な異常ホール効果を観測しました。
  • その起源が、非共面的な構造をもつスピン集団による電子散乱で説明できる可能性を、多角的な検証実験を通して提唱しました。
  • 今後様々な物質において、同じ機構による巨大異常ホール効果の観測が期待でき、省エネルギーデバイスの実現に向けた新たな設計指針につながると考えられます。

概要 

 伝導電子と磁性との相互作用の結果、電流と垂直方向に電圧が生じる現象は「異常ホール効果」と呼ばれ、基礎・応用の両観点から近年大きな注目を集めています。その起源には、固体中の仮想磁場に由来するものと、不純物からの電子散乱によるものがありますが、近年の固体中の幾何学的位相の概念確立によって、多くの物質で前者の寄与が支配的であることが明らかになったため、電子散乱による機構はあまり注目されてきませんでした。
 東北大学金属材料研究所の塚﨑敦教授は、東京大学大学院工学系研究科の藤代有絵子大学院生と金澤直也講師、理化学研究所創発物性科学センターの十倉好紀センター長らを中心とする研究グループ、東京大学物性研究所の徳永将史准教授、理化学研究所創発物性科学センターの于秀珍チームリーダー、東京大学大学院工学系研究科の永長直人教授、市川昌和名誉教授、川﨑雅司教授らの研究グループと共同で、カイラル磁性体MnGe(Mn:マンガン、Ge:ゲルマニウム)の薄膜において、電子散乱機構に基づく巨大な異常ホール効果を発見しました。この結果を、従来の電子散乱機構によって説明することはできず、熱励起された非共面的なスピン集団が電子を散乱するという、全く新しい機構で理解できる可能性を示しました。特に、異常ホール効果の詳しい温度・磁場依存性や、膜厚制御による磁気異方性に対する変化を調べることで、上記の機構の妥当性を実証しました。
 今回の成果により、電子散乱に起因した巨大異常ホール効果の観測が、今後より多くの物質で期待できます。また一般に、ホール電流はエネルギー損失を伴わないため、省電力デバイスの新たな設計指針につながることが期待できます。
 

詳細

 

図1 観測された巨大異常ホール効果の特徴と新しい電子散乱機構の模式図

(a)厚さ160ナノメートルの薄膜におけるホール伝導度の温度・磁場相図。ヘッジホッグ格子やらせん磁性が消えた強磁性領域において異常ホール効果が増大している。(b) ホール角が最大になる磁場点において、ホール伝導度と縦伝導度を温度変化させながらプロットしたもの。膜厚や品質に依らず、あらゆる試料においてスキュー散乱に特徴的な線形の比例関係を示している。比例直線の傾きの大きさがホール角に相当し、18~22 %と大きな値を取っているため、従来のスキュー散乱とは異なる機構が示唆される。(c) 熱励起された非共面的なスピン集団によって、運動する電子が横方向に散乱される様子を描いた模式図。