プレスリリース・研究成果

PET検査用のCe:GAGGシンチレーター結晶を4インチ径で製造する技術を確立 ―PETの性能向上により、小さながんの早期発見を実現―

2019/12/20

 東北大学と(株)C&Aは、NEDOの「戦略的基盤技術高度化支援事業」で得た成果を元に、がん検査などに使われる陽電子放射断層撮影装置(PET)用のセンサー素子であるセリウム添加ガドリニウムアルミニウムガリウムガーネット(Ce:GAGG)シンチレーター結晶を、直径4インチ(101.6mm)、長さ150mm、ひび割れなし(クラックフリー)で製造する技術を確立しました。

 Ce:GAGGは、従来のPET用シンチレーター結晶材料と比べて2倍程度の発光量を持つため、PET用シンチレーター結晶の高発光量化・高感度化によるPETの特性向上が見込めますが、蛍光寿命が長くPETには適していませんでした。今回、最適な共添加剤とその最適濃度を見いだし、高い発光量を保ちつつ蛍光寿命を短くすることで、高速時間応答を実現し、PETにも適用できるようになりました。

 本技術の活用により、PET検査で小さながんでも早期に発見でき、がん患者の医療費の削減とQOL(生活の質)向上に寄与することが期待されます。

概要

 近年、がん細胞の検知やアルツハイマー病の部位の同定に陽電子放射断層撮影装置(PET:Positron Emission Tomography)による検査が行われています。PET検査では、ポジトロン(陽電子)を発生する薬剤を体内に注入し、ポジトロン核種が放出する放射線を特殊なカメラで検出することで、脳や心臓などに薬剤が集積する様子を断層写真に収めます。PETのセンサーヘッドは、ポジトロン核種からの放射線を光に変換する結晶(シンチレーター結晶)と受光素子からなる放射線検出器で構成されているため、PETの高性能化には、高速時間応答、高発光量、高感度で高いエネルギー分解能を持つシンチレーター結晶が必要です。現行のPET用シンチレーター結晶には、セリウム添加ルテチウムイットリウムオルソシリケート(Ce:(Lu1-xYx)2SiO5 (Ce:LYSO))などが用いられていますが、精密な温度制御が要求されるほか、原料の大部分を中国産に依存しており、近年その価格が高騰しているなど、供給が不安定という課題がありました。
 
 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2015年度に「戦略的基盤技術高度化支援事業」を開始し、株式会社C&Aおよび国立大学法人東北大学と共同で、Ce:LYSOに代わるシンチレーター結晶の製造技術の開発に取り組んできました。その中で3者は、PET検査に必要な密度を持ち、発光量がCe:LYSOの2倍程度のセリウム添加ガドリニウムアルミニウムガリウムガーネット(Ce:Gd3(Al,Ga)5O12(Ce:GAGG))に着目し、ガーネット型構造結晶特有の問題である成長時の結晶のねじれとひび割れ(クラック)を抑制する方法論を見いだすことで、2017年に直径3インチ(76.2mm)のシンチレーター結晶製造技術を確立しました。
 ただCe:GAGGには、Ce:LYSOよりも蛍光寿命が長くPETには適さないという課題がありました。

 そこでNEDO事業終了後に、(株)C&Aと東北大学は、高発光量を維持しつつ蛍光寿命の短寿命化(応答時間の高速化)を実現するために最適な共添加剤とその最適濃度を見出し、蛍光寿命がCe:LYSOと同等の40ns程度まで高速化する組成方法を確立しました。さらに、NEDO事業成果である結晶サイズの大口径化とねじれ成長の抑制方法論を発展させ、Ce:GAGGシンチレーター結晶を、直径4インチ(101.6mm)、長さ150mm、クラックフリーで製造する技術を確立しました。

 本技術の活用により、PETに用いるシンチレーター結晶の高速時間応答、高発光量、高感度化などが見込まれ、PETの解像度が向上することから、より早期での小さながんの発見が可能となり、がん患者の医療費削減とQOL(生活の質)向上に寄与することが期待されます。

詳細

  • プレスリリース本文 [PDF: 307KB]

 

図 直径4インチのCe:GAGGシンチレーター結晶