スピントロニクスは電子の電荷だけではなく、スピンをも利用した次世代の情報処理技術です。スピントロニクスを利用したデバイスは、高速かつ不揮発なメモリーや、超高密度なハードディスクとして身近になりつつあります。しかしながら、スピントロニクスにおいては、スピン流の流れやすさを制御するスピン流スイッチを実現する手段が確立されておらず、その動作原理の発見・実証が望まれていました。
本研究では、反強磁性体の相転移での振る舞いを利用して、スピン流スイッチが実現できることを実証しました。スピン流の具体的な素子には、磁性絶縁体であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)とスピン流検出用の白金(Pt)の間に、反強磁性体である酸化クロム(Cr2O3)を挟んだ構造を用いました。YIGからPtに向けてスピン流を注入すると、Cr2O3でのスピン流の流れやすさに応じた起電力が、Ptに生じます。本研究では、この起電力測定を通じて、反強磁性相転移により、Cr2O3がスピン流に対する導体から絶縁体に変わることを見出いだしました。さらに、この相転移の近くで磁場を加えることによって、この相転移前後のスピン流の流れやすさを500%もの大きさで変化させられることを示しました。齊藤教授らは、電流における類似の現象から、本現象を「巨大スピン磁気抵抗効果」と名付けました。
これは、外部磁場によってスピン流の流れやすさを制御できる、すなわちスピン流のスイッチを実現する原理を発見したことになります。本研究は、これまでスピントロニクスに欠けていたスピン流スイッチを見いだしたものとして、さまざまなスピントロニクスデバイスの展開に貢献するものと期待されます。
本研究はJST戦略的創造研究推進事業ERATO齊藤スピン量子整流プロジェクトの一環として行われました。