学生インタビュー

金研には、学部から進学する学生だけでなく、他大学や高専など学外から進学する学生も多く在籍しています。今回は、学外から進学した3名に、外部の視点から見た金研の魅力や、研究室での取り組み、卒業後の進路について話を伺いました。

白井 宏尚
理学研究科 物理学専攻
博士課程前期2年
野島研(低温物質科学実験室)
出身学校:広島大学
【研究テーマ】
低温で顕著にその特性が現れる薄膜超伝導の研究をしています。超伝導体を薄膜化し、2次元の電子系を実現すると、3次元試料とは異なる特異な物性が現れます。この現象を低温や磁場中で詳細に調べることで未知の超伝導現象の解明を目指しています。
伊藤 千紗
理学研究科 化学専攻
博士課程後期2年
宮坂研(錯体物性化学研究部門)
出身学校:鶴岡工業高等専門学校
【研究テーマ】
触媒活性な多次元格子の研究をしています。金属イオンと有機分子を結合させて多次元のフレームワークを構築し、形成されるナノ-マイクロサイズの細孔空間に二酸化炭素などの基質分子を導入できる性質を利用して、高機能な化合物の開発を目指しています。
久米 俊輔
工学研究科 応用物理学専攻
博士課程前期1年
淡路研(強磁場超伝導材料研究センター)
出身学校:東海大学
【研究テーマ】
強磁場装置や核融合炉での利用も期待される高温超伝導線材の研究をしています。線材はコイル状に巻いて利用されるため、線材にかかる応力やひずみの影響を調べ、産業応用に不可欠な評価に取り組んでいます。

学外に進学しようと思ったきっかけと金研を選んだ理由

充実した研究設備と独創的な実験技術にとても驚きました(白井)

白井 当時、私の研究室の先生を含めて、広島大の低温実験の先生は全員東北大出身、先輩も金研に進学し、低温研究といえば東北大、という印象が強くありました。特に超伝導の研究に興味があり、今の研究室を見学した際には、充実した研究設備と独創的な実験技術にとても驚きました。先生のお話が当時3年生の私に非常にわかりやすく、金研での超伝導の研究に強い憧れを持ち、進学を決めました。

伊藤 高専1年生の時から大学院を視野に入れてはいましたが、実際に進学を決意したのは研究室で実験をするようになった高専4年生から。私の場合、この研究をやりたいというというより、自分で研究を組み立てられるように実験遂行力を身に着けたい、そのために使える装置を増やしたい、ということが大きな動機でした。研究室を選ぶときには、ウェブサイトをくまなく見て、実験装置の充実具合などを調べました。今の研究室は装置が充実している上に、測定条件に合わせて装置に自分たちで手を加えるので、やりたいことをやるという環境ができています。

久米 入学した大学が自分の想像と違っていたので、その時点で他の大学院に進学しようと計画を立てました。いろいろ調べる中で、当センターが超伝導研究の指折りの施設であることを知り、こんなところで研究できたらなと思っていました。当時の実験環境から、もっといろんな測定をやりたいと感じていたので。見学した際には先生や先輩方がとてもフレンドリーで、その点も決め手になりました。人や生活などの環境も重視していて、その点は心配せずに研究に取り組めると思ったからです。

学外から見た金研の魅力

白井 今まさに注目されている最前線の研究に取り組んでいる点です。現在進行形で開拓されているテーマにチームで挑み、世界と競っていると感じます。また研究科と比べて学生数が少ないので、一人1つ装置が使えるくらい研究に没頭させてもらえる環境です。日本の低温研究発祥の地という、歴史ある研究所だからこその成果の積み重ねが、幅広い交流や充実した設備につながっているんだなと思います。

伊藤 学生数に対して教員が多く、教育が行き届いている印象があります。世界レベルの研究を目指しているので、他の研究室と比べて成果を論文にするまでが早く、スピード感があります。共用装置には技術職員の方が付いていて、使い方はもちろん、出た結果のディスカッションもしてくれます。プロの目線を常にもらえる環境はスピード感に役立っていますし、共同研究にも発展しやすいです。

世界の研究者と交流できるのは大きな魅力です(久米)

久米 実験を主体性をもってやらせてもらえるところです。どうしたらいいか悩んだ時にも、先生にすぐに相談ができます。また世界の研究者と交流できるのも大きな魅力です。一方、利用したいユーザーが国内外にたくさんいる装置を使うので、限られたマシンタイムの中で、計画通りに自分の研究をしなければならないのは大変です。

研究の魅力や醍醐味、大変だったこと

白井 自分が魅了された超伝導の研究に朝から晩まで打ち込んだことです。特に、先生や研究室メンバーと協力して研究に取り組んだことは大きな醍醐味で、今後社会でも活かせる大きな学びでした。大変だったことは、学会発表準備と夜通しの実験が重なり、タスクが積みあがったこと。思考も回らないし、精神的にも体力的にも苦しかったですが、「きっとなんとかなる」と思える成功体験になりました。

1年やり遂げて得た達成感と経験は大きな醍醐味でもありました(伊藤)

伊藤 M1の時は泣きながら実験をしていました。環境も分野も変わり、まっさらな状態から実験を始めたので、毎日試行錯誤でした。目的の試料が完成したのがM1の3月。1年やり遂げて得た達成感と経験は大きな醍醐味でもありましたし、これからもやっていけるかもしれないという自信につながりました。

久米 世界で唯一無二の成果を目指せる環境で研究に取り組めていることです。論文や成果を出せれば学会にも参加できます。そこでいろいろな人と議論して自分の知見を広げられるのもまた醍醐味の一つです。一方、成果が出るまでの時間が長いのが大変です。実験では試料を入れる場所が覆われて見えないので、失敗した原因は論理的に考察して予測するしかありません。対策を考えて少しづつ改善していく地道な作業の繰り返しです。

学外進学の強み、デメリット

白井 違う大学、環境にいたからこその視点で研究に取り組めることは強味だと思います。内部進学だと研究設備や実験環境を当たり前に感じるかもしれませんが、外部進学だと、その点を理解して研究に取り組むことができます。デメリットは、内部進学者の場合、学部4年生から金研の研究室配属が可能なので、M1から所属する外部進学者は1年遅れて研究がスタートする点だと思います。

伊藤 私の専攻は金研への配属時期が大学院からなので、全員スタートが一緒なのは良かったです。学部生から配属できる研究科の研究室だと、同期とは研究の進捗も違うし、人間関係もできあがっているので、そこに入るよりは金研の方が精神的な苦痛が少ないかなとは思います。金研ならではの研究のスピードの速さで、内部進学の同級生にも最終的には追いついていて、1年遅れというデメリットはカバーできました。

久米 外部進学するということは、なんとなくではなく、「やりたいこと」があってきているので、それは大きな強みだと思います。デメリットは知り合いがいないこと。コミュニケーション能力が高い人は問題ないと思いますが、自分のように得意ではない人は人間関係を一から作る必要があるので少し大変かもしれません。

卒業後の進路や将来展望

白井 4月からは国土交通省の外局である気象庁に勤務します。以前から国民全体の生活を豊かにする仕事をしたいと思い、国家公務員を目指していました。理系なら、0から1を生み出すような科学や産業の発展に貢献する仕事も選択肢になると思いますが、私は理系の素養を生かしつつ、マイナスを0や1にしていくような、人の暮らしと命を守る仕事に就こうと選びました。

伊藤 将来的には研究職に就きたいと思っています。研究のプロジェクトを先導できるような人間になるために、自分ができることをもっと増やしていきたいです。博士課程後期に進学したからといって、就職や視野が狭まったということは全く感じていなくて、その点は心配していません。

久米 博士課程前期卒業後は企業の研究職に就きたいと考えています。企業にとって利益を生み出すことはとても大事なこと。例えば学会での発表を「すごい技術だね」で終わるのではなく、産業界で利用できるようにうまく拾い上げたいと思っていて、この点も踏まえて業界を選び、現在絶賛就活中です。

高校生・学部生(外部からの進学を考えている方)へのメッセージ

白井 研究は誰かの協力があってこそ達成できると強く感じます。研究を通していろいろな人と出会い、相談に乗ってもらい、繋がりができたことで、人生に彩を与えてもらいました。多様な人と繋がり、研究に打ち込める環境が金研のいいところだと思っています。ぜひ頑張ってください!

伊藤 自分の場合、たくさん学生がいる研究室だと、周囲が気になって、焦って自分を見失っていたかもしれないなと思います。金研は学生がそこまで多くない分、できるようになったことを一つづつ自分で認めてあげる余裕があり、ステップアップしている実感があります。将来自分がどうなりたいか、それをしっかり持ち続ければ、どこでもやっていけると思います!

久米 やりたいことがあったら、まずはそれができる場所をぜひ探してください。そして生活や人間関係も重要なので、直接自分で見聞きして調べ、自分がベストと思える選択をしてもらえたらいいなと思います。金研には外部からの進学者も多いので、安心して進学できると思います。もし迷うことや聞いてみたいことがあったら、相談に乗りますのでぜひ連絡ください!

―皆さん、色々な話をありがとうございました。

対談日時:2025年1月
※文中では博士課程前期:M、博士課程後期:Dと記載しています。
※所属、学年はインタビュー当時のものです。