先輩×後輩対談

今回は学部生・院生と卒業生、若手研究者の対談の様子をお届けします。後輩が抱える進路の不安や疑問に、それぞれ異なる経歴を持つ先輩がアドバイス。今回対談に協力してくれたのは量子ビーム金属物理学研究部(藤田研)の学生と教員、そして高エネルギー加速器研究機構の教員です。

先輩
浅野駿  東北大学大学院理学研究科物理学専攻D3 4月より島津製作所に就職(理学博士)
谷口貴紀 金研量子ビーム金属物理学研究部 助教(科学博士)
本田孝志 高エネルギー加速器研究機構 助教(工学博士)

後輩
川本陽 東北大学大学院理学研究科物理学専攻M2
北澤崇文 東北大学大学院理学研究科物理学専攻M1
唐一飞  東北大学大学院理学研究科物理学専攻M1
川又雅広 東北大学理学部物理学科B4
高濱元史 東北大学理学部物理学科B4
陳逸舟 金属材料研究所研究生
 
(所属、学年は対談当時のものです)

博士課程に進んだ理由―やっぱり研究が面白いから!

もっと研究をしたい!

―すでに博士課程に進学を決めたM2、M1の学生さんはその理由を教えてください。

川本 進学しようとはっきり決めたのは学部4年生の時です。当時、研究職か開発職に就くかで迷っていて、研究職につくなら博士課程に進学しないとなれないよと進学説明会で言われたからです。決して義務感で進学しようと思ったわけではなく、今やっていることの延長でご飯を食べれたら幸せだなと思っていたのも決め手にはなりました。

 私は高校生の時に研究者になりたいと思っていました。研究者に直接あう機会はなかったのですが、本やドラマなどの影響で一種の憧れを抱いていたのだと思います。今思えば中二病だったのかもしれません(笑)。

北澤 僕は夏くらいまでめちゃくちゃ悩み、インターンや就職説明会にも行きました。そこで感じたのは、企業だと、ある程度決められたことをこなさなければならない一方、研究者は研究にかかるすべてを自分一人で考え、新しいことを発見できるということです。自分にとっては後者の方が面白い、もっと研究したいと思って進学を決めました。





金銭面は心配しなくて大丈夫

―博士課程進学にあたって、学費や生活費がネックと考える人もいますが、実際はどうでしたか。

本田 博士課程は学振やTA、今はリーディング大学院もあるので、自分でお金を工面する機会は十分にあります。理解のある先生だとそういった情報を教えてくれたり、相談にも乗ってくれるので、仲良くしておくこともちょっとしたコツかなと思います。

谷口 私は奨学金がもらえるリーディング大学院に進学したことが博士課程に進むきっかけでした。研究者になりたいとは思ってはいたものの、自信はなく、修士課程を卒業したら研究者をサポートするような仕事に就こうと考えていましたので。リーディング大学院に受かったことで、進学による金銭的な心配がなくなり、まあこんな博士がいてもいいかな、と思いなおして博士課程に進みました。

浅野 自分は前述のいろんなチャンスを逃しているタイプですが、金研の場合リサーチアシスタントという制度が博士課程にもあるので、それと奨学金で生活はできました。そこが最低ラインと考えると、経済的な心配はあまり気にしなくてもいいと思います。

就職はいつが有利?―自分で考えることがなにより大切

将来を考えるときはポジティブに!

―博士課程への進学を悩んでいる方や、また就職を考えている方はいますか。

 私は来年修士課程に進み、そのあとは就職を考えています。3年くらい日本で働いてから中国に戻る予定ですが、もしもっと研究に興味が出れば博士課程に進学するかもしれません。

川又 私はまだ学部生なので、修士課程後についてどうしたいという具体的な構想はまだないです。

浅野 その時期はそれが普通だと思う。1つアドバイスをするとしたら、将来を考えるときには、こうなったらいやだな、ではなく、こうしたら楽しいんじゃないかな、とポジティブに考えてほしいですね。

高濱 自分の中では、取れるかわからない学位のために3年間博士課程に進むメリットがあまり見えていないというのが現状で、修士課程で就職することを前提に考えています。
 そこで先輩方に質問ですが、修士課程で就職するのと博士課程をとってから就職するのとではそれぞれどういったメリットあると思いますか?

浅野 量子ビームの分野では大型装置を使うので、本当に多くの研究者や技術者が関わっています。その中で、私は将来測定装置を造ったり、施設の研究環境や装置を提供したりする立場にいたいと今は考えています。

本田 自分のやりたいことを達成するために博士号が必要であれば進学するのがいいと思うよ。博士課程進学後にやっぱ違うな、と思ったら卒業後、企業に進めばいい。逆に修士から企業に行った人の中でも、やっぱり大学で研究したいと思って企業をやめて博士課程に進学する人もいる。そういう人はずっと大学にいた人とは違った視点や強みを持っていて、どっちにも良さがあります。重要なことは、進学に迷ったときに流されるのではなく、自分の意思をもって決めることで、それならどちらを選択しても失敗はない!!
 企業だったらインターンシップがあるし、研究施設であれば半年間そこに常駐して実験をしながら、全体のながれを把握することもできるから、ぜひ修士課程で経験してみて自分にとって何かいいかを考えてみた方がいいと思う。

誰にも負けないスキルと未踏の道を見出す、それが博士課程の強み

―博士就職後、大学教員になった谷口さんと企業就職をする浅野さんはいかがでしょうか。

谷口 もし卒業後も研究の世界に携わりたいなら、個人的には、博士課程でこれだけは誰にも負けない、というスキルを身につけておくことが重要だと思います。その技術でいいデータを出せれば人は自然と集まってきますし、そこで重ねた議論が視野を広げてくれますから。私は大学院生の時、NMR※の扱いについては同世代のどの学生よりも世界一になってやろうという強い意志を持ってやっていました。そのためにはNMRを一から立ち上げられるほど基礎から理解することが必須で、修士課程で卒業してしまったら、そこまで極めることはできません。だからこそ博士課程に進むことは必須でしたし、その後培った経験が今はどのような環境でもNMRを扱えるという自信につながっています。

浅野 私の所感では、量子ビームの分野だと、修士課程卒でも測定機器装置一つ一つのプロにはなれるのではないかと思います。一方、博士課程卒には、その人たちが創ったもの、持っているものをどう生かすか、ということも求められると思っています。 自分は浅く広くでも全体を理解し、それぞれをつなげるような役割を担いたいと考え、企業への就職を選択しました。研究者も己の分野では一番だったとしても、他の分野だとわからないこともあります。こっちの分野ではわからなかったことが、あっちの分野の技術や知識を取り入れることで解決できることがあるかもしれない。相互の理解を深めることで技術革新が生まれると信じているので、自分はその立役者になれたらと思っています。

博士課程をとった後はどうする? ―視野の広さが活躍のカギ

今は描けなくて当然!視野を幅広く持つことが大切

―学位を取った後、どんな研究者になりたいか、どんな環境で働きたいかという具体的なビジョンはありますか。

川本 研究者になるかならないかでいえば、自分はなりたいと思っています。具体的に将来どんな研究者なりたいのかといわれると具体的には思い描けていません。量子ビームの分野であれば、試料の作成か、ビームラインを管理するか、その装置を使用する1ユーザーとして研究をやっていくのか、となるんでしょうが、決めかねています。

本田 個人的には、修士博士の段階で進路を1つに絞らないほうがいいと思うよ。それよりも、大学院5年間でできることはすべて吸収して自分のものにしながら、幅広い視野を身に着けるほうが圧倒的に大事。必要とされるスキルや知識は今後ガラッと変わる可能性があるので、「これ(だけ)を専門にする!」と現段階で決めてしまうことは「これしかできません!」ということになりかねず、自分の可能性を狭める危険性があるので気を付けた方がいいです。

谷口 博士課程では長期のインターンシップに参加するチャンスもあるので、いろいろな企業を見てみるのもおすすめです。自分の向き不向きややりたいことは実際に経験してみないとわかりませんし、自分も実際に参加してみて考えが変わりました。

将来の不安は新しい視点と技術、そしてがむしゃらさで乗り越えろ!

―博士課程後、研究者のポストに不安を抱く学生さんもいます。

川又 実際私も不安がありましたが、研究室に配属して先輩方が何とかなっている現状を知ることができたので、今はポジティブに考えられるようになったと思います。

 自分の場合、世界にまだ知られていない現象を発見することに興味があるので、大学で基礎研究を続けていきたいと思っています。ただ、あまたの優秀な研究者がいるなかで、自分の実力を考えると将来大学に残れるか心配しています。

本田 ポストはそこまで心配しなくていいと思う。ただ自分が他の人より一つ抜きん出るには、一度新しい視点を入れて、他の研究者とは違うことを覚える必要が絶対あるよね。研究のトレンドを把握し、それに応じて自分に必要なスキルを身に着けていくことが重要で、博士課程ではそういった視野の広さも培った方がいいとは思う。自分の場合は、モノづくり環境のない測定機関に一時期所属し、そこで測定技術や手法を徹底的に学んだよ。

浅野 確かに優秀な研究者が一斉に同じことをやったら埋もれてしまうのは確実です。だからこそ物理学者として自分の興味関心はどこにあるのか、なにに問題意識を持っているのかを明確にして、自分にしかできないことを模索する必要があると思います。自分の場合、量子ビームはもっと社会に活躍の場があるはずなのに、それを広めるための取り組みはほとんどされていないことに強い問題意識を持っているので、社会と量子ビームと間のギャップを埋める第一人者になってやろうと思っています。

谷口 目のまえのことに一生懸命になることも大切だと思います。私自身も優秀な研究者たちを見て、自分は研究者にふさわしくないと考えた時期もありましたが、こんなドクターがいてもいいんじゃない、という言葉にとても救われた覚えがあります。とりあえずがむしゃらにやっていれば、一つか二つは自分にしかできないことが見つかることもあるので、それをつかもうとする意識をもっておけばいいと思います。

気負いすぎないで!博士課程は誰にでも門戸が開かれている

気持ち次第で門が叩ける、それが博士課程

―それでは学生を代表して川本君おねがいします。

川本 話を伺って、そこまで不安になることはないなと思いました。研究職のポストも何かしら得ることができるし、博士でこそ得られる技術や知識もある。なにより博士は特別な人間だけに門戸が開かれているような特別なものではなく、気持ち次第で門が叩けることを改めて認識した。研究の道に進むにしても、就職するにしてもいずれの道を選んだとしてもそれなりの苦労は伴うわけで、博士課程に進むからって入ることに気を負う必要はないよ、と後輩にも伝えられればいいですね。

大切なのは自分で選ぶこと

―最後に先輩方からお願いします。

浅野 これまでどういうことをしてきたかということも大切だけど、どっちが進みたい道か、どうしたいか、という熱意が一番大切だと思います。

谷口 気負わなくていいと思います。皆さんの不安は学生時代に自分も思っていました。企業の人は博士に行ったら就職できない、仕事がないといっていましたが、実際はそんなことはなく、現実を知らないのが一番問題だと思います。いろいろな人から情報を得ることが改めて大切だと思いました。こんな博士いてもいいやというノリでがんばれはいいと思います!

本田 自分がやりたいことの延長線上に博士課程があるのであればそっちを選択すればいいと思います。自分で選ぶことがなにより大切。何度も言うようにどっちを選んでも就職は心配しなくてよいし、自分のやりたいこと、軸を見つける期間が博士課程だと思ってほしいな。博士課程に進むかどうかで悩むよりも、何か面白いことがその先にあるかという判断基準が大切だと思います。

―どうもありがとうございました

対談日時:2020年3月18日