2017年度修士課程修了生インタビュー

世界最先端の研究に取り組みたい、それが金研を選んだ理由

五藤 愛
工学研究科金属フロンティア工学専攻
修士課程2年→就職
金属組織制御学研究部門(古原研)
鉄の面白さに魅せられ、鉄鋼の研究に取り組む。鉄鋼は加熱後急冷することで強度が増すが、ボロンを添加すると冷却速度が遅くとも高強度となる。この冷却の過程で生じるボロン偏析の挙動と強度との関係を原子レベルで解明した。

※金属の強度と熱処理(焼入れ):通常金属の強度は冷却速度に比例し、高温の状態から急冷(焼入れ)するほど高強度になる。しかし造船に使われるような厚い鉄鋼板(厚板鋼材)の場合、内側はゆっくり冷えるため内外で強度差が生じる。これを解消すべく(焼入れ性の向上)、現在モリブデンが添加されているが、同様の効果を持ち安価なボロンがその代替になると期待されている。

小玉 翔平
工学研究科材料システム工学専攻
修士課程2年→博士課程進学
先端結晶工学研究部(吉川研)
昇華性のあるハロゲン化物からなる化合物を研究対象とし、高性能な新規単結晶シンチレータ材料を探索する。研究開発から性能評価までを一貫して取り組み、材料設計・結晶育成技術・光物性・放射線など複数分野で網羅的に研究を進めている。

※単結晶シンチレータ:放射線やガンマ線などの高エネルギー光子を紫外~可視光の低エネルギー光子に変換することができる材料。主に放射線検出器に使用され、放射線検出器は放射線量モニターのみならず、陽電子断層撮像装置(PET)や石油探査装置などにも応用されている。高性能なシンチレータの開発には不純物のない大きな塊の単結晶をつくる技術の確立が必要不可欠とされる。

日置 友智
理学研究科物理学専攻
修士課程2年→博士課程進学
量子表面界面科学研究部門(齊藤研)
次世代電子デバイスとして期待されるスピントロニクスの分野でスピン波の研究に取り組む。測定が困難であった物質中のスピン波の伝播の様子を簡便に測定できる技術を駆使し、全く新奇なスピン波変換現象の観測に成功した。

※スピントロニクス:電子の磁気的性質であるスピンを利用して動作する、全く新しい電子素子を研究開発する分野のこと。

※スピン波:磁性体の磁化同士の振動が波のように伝わる運動のこと。スピン波は磁化の動き方の一つであり、情報や熱を運ぶ媒体として利用が期待されている。スピン波の性質の理解は、スピントロニクスにおける重要な課題の一つ。

自由な環境で自分で決める それが大学院

―このたびはご卒業おめでとうございます。まずはじめに、大学院生活を一言で振り返るとどのような2年間でしたでしょうか。

小玉 僕は新しいことへの挑戦の2年間でした。研究の予算を取ったり、自分一人で海外の研究機関を訪問して実験をしたり、自分が主体となって研究を進められる環境で、いろいろなことにチャレンジさせてもらえました。

日置 僕は実行の2年ですね。自分の場合は、研究テーマも自分で考えるくらい自由度があって、、

小玉 え!テーマを探すところから?

日置 そう。いろいろ論文を読んで、面白そうだな、と思ったことを自分のテーマに決めます。学部の時にいかに学んできたかも問われましたし、持っている知識を研究でいかに駆使するか、いろいろ試行錯誤しながら実行に移すことができたと思います。

五藤 私は自分の裁量でいろいろ決めることができた2年間でした。研究の進め方はもちろん、研究を一生懸命やりたい場合も、就活を頑張りたい場合も、自分で決められる自由さがありました。私の場合、将来やりたいことと研究内容が一致していたので、自分は研究を頑張ろうと決めて取り組みました。

日置 五藤さんの将来やりたいことってなに?

五藤 私は鉄の研究をしたかったので、今の研究室を選び、会社も鉄鋼会社に就職が決まりました。

小玉・日置 おめでとうございます!

最先端の研究ができる環境で学びたい

―今の研究室を選んだ理由を教えてください 。

小玉 研究室を決めるとき、大学教員になりたいとぼんやりとは思っていました。吉川研室は機能性単結晶材料の開発から特性評価まですべて一貫して行い、作ったものは社会還元していこうという理念を持っています。これを聞いたときに研究者としての一つの道が見え、論文数も業績も断トツだったので、ここにいくしかないと思いました。

五藤 学部4年の時にステンレス材料の研究に取り組み、そこで鉄ってすごく面白いな、と思ったのがきっかけです。鉄は熱力学的にも材料強度学的にもバラエティに富んだ性質を持っていて、私たちの学科では金属工学に関することのほとんどは鉄をベースに学びます。初めは宇宙工学に興味があったはずなのに、どんどん鉄に魅了されていきました。古原研は鉄の組織制御では日本で一番著名な研究室なので、そこの門下生になろう!と思いました。

日置 僕は博士課程に進むことも考えて、初めは海外の大学院に行こうと思っていました。そこで最先端の物理学研究ができるスピントロニクス分野に行こうと研究室を調べたら、齊藤研が一番進んでいることが分かり、結果日本にとどまることになりました。

小玉 僕も同じです!金研が最先端なので、わざわざ海外に行く理由がみつかりませんでした。

日置 今思えば行ってもよかったかな、とは思います。でもなにより、教授と話したときに感じた知識の広さや思考の深さに驚愕し、こういうところで勉強したいと思ったのが決め手でした。

小玉 今の研究室で知識や技術をしっかり学べば、海外で戦えるだけの力は付けられると思うので、これからいくらでもチャンスはあると思っています。

五藤 私はそこまで海外に行きたいとは思わなかったから、日本でトップの古原先生が金研にいてくれてよかったーと思いました!

ものづくりのつらさ、就活との兼ね合い、テーマ決め

―研究を進めていくなかで大変だったことはありますか?

小玉 僕の研究は材料を作るところからがスタートなので、結晶が合成できず、思い通りに進まなくなることが大変でした。ものづくりに携わるには、サイエンスだけではなく、テクニカルの部分も磨かなければならないことを痛感し、焦っています。

日置 2年間でコツはつかめた?

小玉 きっかけをつかみ始めたくらい、かな。物を作れないと意味がないというのは、材料分野の特異なところだよね。むしろ材料が作れないこと以外に何が大変だったのか聞きたい!

五藤 私は比較的スムーズにいった方だと思いますが、実験では再現性がなかなか取れなかったことが大変でした。熱した鉄を冷却するタイミングが少しでもずれるとまったく違う結果になってしまうので。でも一番大変だったのは就活との兼ね合いです!就活が始まる修士1年の冬は、研究がはかどる時期でもあります。学会でもいい発表をしたかったので研究は手を抜きたくないし、両立が一番苦労しました。

日置 自分はテーマ決めです。修論のテーマを決めるまでに1年くらいかかりました。使用する装置は決まっていましたが、それを使って何ができるかも含め、テーマを決めるためにかなり幅広く勉強しました。出てくるデータの解釈もすべて自分で考えなければならず、装置もマニュアルがないので、操作を覚えるのも苦労しました。

大学院生、だけど研究者

―金研で研究することのメリットやデメリットはありますか?

小玉 東北大は「生徒を伸ばしてくれる大学ランキング」でも1位で、東北大といえば材料、そしてその礎を築いているのが金研。最先端の研究所で研究に取り組める環境が学生に与えられていることは大きなメリットだと思います。

日置 僕は大学院生というより研究者として扱ってくれるところがよかったです。

小玉 研究者として接してもらえることは、研究をやって当然、という環境でもあります。研究に関わるすべてのことを自分でやらなければならず、そういう点では、研究にモチベーションがないと大変なこともあると思います。

五藤 私は論文の書き方や学会発表の仕方まで丁寧に教えていただいたので、就職しても不安はありません。研究者の卵を育てるような指導が研究所の特徴だと思います。

日置 デメリットとは少し違いますが、金研の先生は講義も少なく、所属学生の数も少ないので、金研がどんなところかという情報は学部生に伝わりにくいかもしれません。

小玉 確かに研究室を選ぶとき、すごいことはわかっているんだけど、先生がどんな人かわからない、という話はよく聞きました。

五藤 あと青葉山は金研よりも学生の数が多いし研究室間の交流も多いから、楽しそうだなぁとは思います。

研究をしたい人はぜひ金研へ!

―大学院進学を考えている学部生や金研の研究に興味がある人にメッセージをお願いします。

小玉 研究者になるかどうかにかかわらず、最先端の研究に触れてみたい、自分の手で何かを成し遂げてやるぞ、という人にはここより最適な環境はないと思います。

日置 僕も研究したい人にはぜひきてほしいです。主体性も研究の過程でだんだん育つというか、むしろ育ててもらえる環境だと思います。ざっくりとした目標だけを与えられて、あとは自分で課題設定をし、行動に移す。これは社会でも同じく求められることですよね。

小玉 研究のプロセスそのものがPDCAサイクルだよね。研究を進める能力でもあるけど、一生自分の身を助けるスキルにもなるのではないかと、、言いすぎかな?

五藤 学部生のときに、金研は厳しいという人もいたけど、自分はそこまででもないよーと言いたいです。研究をやりたい人がやっているし、環境も整っているので、そこは捉える人次第。本多先生の「今が大切」という言葉のとおり、将来やりたいことがあったら、まずは今やるべきことを着実にやる。研究者として育つにはとてもいい環境だと思います。

日置 大学院は専門性以上に、研究が培う主体性だったり、行動力だったり、粘り強さだったり、そういうことのほうが大切だと思います。金研はそれを実体験できる場。お膳立てされたものに乗っかるのではなく、自分で苦労するからこそ得られるものがあると思います。

―最後にこれからの抱負を教えてください。

五藤 研究室も就職先も鉄鋼に関係する分野を選んできたので、2年間金研で学んだことを生かして社会に貢献できるような研究者、技術者になれるよう頑張ります。

小玉 まだ発見されていない結晶を作ることはもちろん、金研の強みを生かして、共同研究など外とのコラボレーションを積極的に増やしていきたと思います。

日置 日本と同様にスピントロニクス研究が盛んなドイツに留学をするので、国内外に目を向けながら、自分の研究の幅を広げて行きたいと思います。

2018年3月14日取材・撮影