つとめてやむな 金研若手研究者インタビュー 「努めて止まない」若手研究者に聞く
強磁場超伝導材料研究センター 准教授 木村尚次郎(右)、助教 岡田達典(左)

vol.3物理に魅せられて、ただひたすらに

附属強磁場超伝導材料研究センター(以下強磁場センター)は、磁性体や超伝導体をはじめとした革新的な物質・材料の研究を行う金研の付属施設です。
今回は本センターの木村准教授と岡田助教に、研究の面白さや現在の研究分野を選んだきっかけについて伺いました。
強磁場センターのWebサイトはこちらをご覧ください。)

強磁場が引き出す特異な現象を追う

―強磁場センターに着任されるまでの経歴を教えてください

木村)私は石川の生まれで、大学から助教時代までは神戸と大阪で過ごし、2010年から強磁場センターに着任しました。

岡田)私は岡山出身で、昨年3月に東大を卒業後、ポスドクを半年やって初めての着任地が本センターになります。

―お二人とも仙台は着任してから初めてお住まいになったようですが、仙台の暮らしはいかがですか

木村)仙台は過ごしやすい街ですが、私には少し日差しがもの足りず、大阪の照り付ける強い日差しが恋しくなります。

岡田)東京に10年いたので、新しい土地に移ることは少し不安でしたが、仙台は思った以上に快適です。

―それではお二人が取り組まれている研究内容を教えてください

木村)私は強磁場下における磁性体の性質の変化を調べています。強磁場マグネットは10-20テスラ*1という一般的な磁石の何倍もの磁場を発生させることができます。こうした極限の環境下におかれた物質は、通常の状態では見られない様々な物理現象を引き起こします。磁性体の場合、強磁場によってスピンの振る舞いが変化し、それによって結晶構造や光吸収スペクトル、電流の流れ方も変わります。強磁場下でしか見られない特異な現象を解明していくことが研究テーマでもあり、私の最大の興味でもあります。

強磁場超伝導材料研究センター 准教授木村尚次郎

岡田)私は強磁場に使用する超伝導線材の評価を行っています。強磁場装置には大電流を流せる超伝導材料が使われます。強磁場下で超伝導現象を維持するためには、超伝導体に侵入する磁場(磁束量子)が動かないようにしなければなりません。この磁束量子の固定(ピン止め点)には、超伝導体中に添加した常伝導物質を使う方法がありますが、常伝導物質の最適な大きさや形状などは、線材を使用する状況下によって異なります。試料の評価を通して磁束量子の振る舞いやメカニズムを解明し、より良い線材の提案につなげることも一つのミッションです。

物理と実験に魅せられて

―研究をされていて大変なことはありますか

木村)たいへんなことですか。。。

岡田)データの解釈に苦しむことはありますが、そこがまた面白いところなので、一概に苦悩とはいえないですね。

―お二人とも強磁場が引き出す物理現象に魅せられているのですね。どういったきっかけで強磁場の研究に取り組むようになったのでしょうか

木村)私は学部4年生の時に強磁場の研究室を選んだことが大きいと思います。その時は実験がしたいと思い、他の施設にわざわざ行かずに自分たちの部屋で実験ができるところにしよう、と選んだのが強磁場の研究室でした。

―初めは積極的に強磁場という分野を選んだわけではなかったのですね

木村)そうなんです。研究員から現在まで研究内容もほとんど変わらずに強磁場の研究に携わってこられたのは、色々なめぐり合わせがあったからだと思います。

―木村先生自身も気づかぬうちにのめりこんでいたことが想像できます。岡田先生はもともと物理がお好きだったとのことですが、その中でも今の分野を選んだきっかけはあったのでしょうか

岡田)私は超伝導現象、特に磁束量子に興味をひかれました。磁束量子が実際に動く顕微鏡動画をみて「これはすごい!」とインスピレーションを感じたのを今でも覚えています。

―ずいぶんと強烈な印象だったのですね!

岡田)また磁束量子は量子力学、電磁気学、熱力学、流体力学など背景に様々な物理が絡んでいて、するめのように噛めば噛むほど味が出るというか、突き詰めるほど奥が深い分野であることも魅力の一つです。

強磁場超伝導材料研究センター 助教岡田達典

尽きることのない探求心

―そんなお二人にとって強磁場センターの研究環境はいかがでしょう

木村)このセンターに来てから、いろいろな磁性体をみるたび強磁場にかけたらどうなるかな、、と考える習性がついてしまいました。昔作った試料も今の設備で再測定したら、昔測った試料も今の設備で再測定したら、そのとき見つけられなかった現象がみえるのでは、、と考えは尽きないです。

岡田)私は磁石がたくさんあるという環境だけでテンションが上がりますね(笑)。

―それだけセンターの実験設備が充実しているということでしょうか

木村)そうですね。センターに来る前は主に電子スピン共鳴*2を用いて磁性体の性質の変化を調べていましたが、ここでは磁歪や誘電率を測るなど、多彩な測定ができる環境が整っていて、実験のしがいがあります。

岡田)ボタン一つ押すだけで20テスラ、25テスラの磁石がすぐに使用できる環境は大変魅力的です。測定手法も直流・交流電気抵抗、比熱、磁化率、電子スピン共鳴、核磁気共鳴などたくさんあるので、センター内で実験を完結できることも大きな特徴だと思います。

―今後の抱負や研究の目標はありますか

木村)今後どうしたいかといわれると、そうですねえ、、一つの現象を突きつめていく方をみると、すごいなあ、そんな風になりたいなあ、とも思うのですが、、やはり自分は色々な磁性体を調べて、磁場によって変化する性質や新しい現象を見つけていく、それに尽きますかね。

岡田)超伝導の未だ知られていない現象を明らかにしていきたいです。様々な物理現象が絡む磁束量子は面白い現象がきっとまだまだあるはずです。新たな現象を実験でたくさん見つけて、一つ一つ解釈ができるようになりたいですね。

―どうもありがとうございました!


強磁場超伝導材料研究センター 准教授木村尚次郎(右)、助教岡田達典(左)

注釈

  • *1) テスラ (T)…磁石の強さを表す単位。世界最強の永久磁石:ネオジム磁石は1.4テスラ、医療で使用されるMRIなどは約1-1.5テスラほど。強磁場センターでは20テスラ以上の磁場を発生できる装置がある。↑本文へ戻る
  • *2) 電子スピン共鳴法(ESR)…物質中の電子状態などを解析するための手法。物質に電磁波を照射すると、不対電子が特定周波数の電磁波を吸収する。これを電子スピン共鳴といい、吸収される電磁波の周波数や吸収線の幅が物質によって異なるため、それらを観測することで物質中の電子の状態を知ることができる。↑本文へ戻る

2017年5月インタビュー 情報企画室広報班(横山)

※教員の所属およびインタビュー内容は取材当時のものです。