つとめてやむな 金研若手研究者インタビュー 「努めて止まない」若手研究者に聞く
金属材料研究所 所長 高梨 弘毅(左)、附属新素材共同研究開発センター准教授 梅津 理恵(右)

特別インタビュー猿橋賞受賞記念対談

2019年5月に附属新素材共同研究開発センターの梅津理恵准教授が第39回猿橋賞を受賞しました。

自然科学分野で顕著な研究業績を収めた女性科学者に贈られる本賞の受賞を記念して、
推薦者でもある本所所長高梨弘毅教授と梅津准教授の対談の様子をお伝えします。

(本記事はIMRニュースVol.89に掲載した対談記事に加筆・修正して掲載しています。)

自分には縁のない賞だと思った

―この度はご受賞おめでとうございます。本賞の応募のきっかけや受賞式の感想を教えてください

梅津)猿橋賞は名だたる先生方が受賞されているので、賞の存在を知った当初は自分には縁のない賞だな、と思っていました。ただ、自分が応募資格の上限年齢に近づいてきたことと、自分の研究がちょうど成果としてまとまった時期だったので、挑戦するなら今だと思い応募しました。かなり難しいだろうと思っていましたので、正直受賞には驚いています。授賞式には所長をはじめ、これまでの恩師の方々にもご参列いただき嬉しかったです。

高梨)私は授賞式で祝辞を述べたのですが、著名な女性研究者が集まる会ということで、妙に緊張してしまいました。会場も女性が大半を占めていたのがまた新鮮で、普段自分がいかに男性の多い環境で仕事をしているのかを痛感しました。授賞式では梅津さんのご主人やお姉さんのスピーチもあり、ご家族から見た梅津さんの一面を知ることができて大変面白かったです。

梅津)受賞についてはいろいろなメディアにも取り上げていただいたのですが、家族からの反応はかなりドライで、掲載された記事を見せても、フーンとそっけない反応で少し悲しかったです(笑)。

金属材料研究所 所長 高梨 弘毅  新素材共同研究開発センター 准教授 梅津理恵

多様な研究者像を示したい

―猿橋賞は女性研究者の活躍を奨励する代表的な賞ですが、大学におけるダイバーシティ推進にどのような印象をお持ちですか

高梨)女性研究者は我々の世代と比べれば増えていますが、海外と比較するとまだまだ足りません。たとえ機会が等しく与えられてはいても、周りの環境が影響して一歩踏み出せないことも多々あるでしょう。我々はそこを強力にフォローして推し進めていく必要があると思います。

梅津)そうですね。学会などに参加すると、確かに女性研究者は増えてはいるのですが、言い続けている割には、思いのほか増えないな、という印象があります。第25回猿橋賞受賞者の小谷先生とお話した際に聞いたのですが、ある男性の研究者は公募している組織に女性の研究者がどのくらいいるかを確認するそうです。女性が多い組織は多様性を受け入れる柔軟な発想を重んじるからという理由を聞いて、なるほどと思いました。ダイバーシティ化は、独創的な発想を必要とする研究の発展にも寄与すると思います。

高梨)梅津さんのように家庭と仕事を両立している研究者もロールモデルとして重要な役割があると思います。

梅津)私は両方をなんとかこなしているだけで、両立はできていないと思います!ただ、家庭か仕事かどちらか一方を選ぶことが多かった前の世代とは別の道もあることを、自分の姿で示せたらとは思います。また、ダイバーシティ化が進む傍ら、将来や周囲環境への不安などを理由にアカデミアを志望する学生が減っていることは大変残念です。金研でもいくつか事例があるように、大学院を卒業したばかりの女性を教員として積極的に採用することは、1つのキャリアビジョンを示すいい事例になると思います。

新素材共同研究開発センター 准教授 梅津理恵

―実際に家事の分担などはどうなさっているのでしょう

梅津)子供が生まれたばかりの頃はほとんど私がしていました。特に2人目の子供が生まれるまでは、夫も会社員で毎週のように出張に出ていましたし、、やったとしてもゴミ出しぐらいでした。ただつらいというのはなくて、しょうがないと思っていましたね。転職して自営業が軌道にのったあたりから、やってくれる家事も増えていきました。今は子供の送り迎えや洗濯など、家事全体半々の分担になっています。

高梨)私にも3人の子供がいますが、1人目の時は乳幼児の扱い方がわからないので、むしろ戸惑いの気持ちもありました。子供が増えるごとに余裕をもって接することができるようになりましたが、逆に1人目が小さいときにもうちょっと可愛がってあげればよかったなと思います。意外とそう思っている同世代の男性は多いみたいです。

梅津)そういえば、孫の育児休暇をとることはできないかな、と仰っていた先生もいらっしゃいました。育児休暇ならぬ育じぃ休暇。

高梨)育じぃ休暇!人生100年世代を考えたら、大変いい発想かもしれないですね!

金属材料研究所 所長 高梨 弘毅

広がる視野を研究に生かして

―お二人とも理学系出身で、現在は工学系の研究をされています。そうした経緯は研究にどう生かされていますか

高梨)私自身は理学と工学、基礎と応用の区別が重要だとは考えていません。価値のあるものはかならず役に立つので、研究をカテゴライズして区別することにあまり意味はないと思います。とはいえ、金研にきたばかりの若い頃は「俺は基礎研究だ」と思っていました。理学と工学の双方の分野を経験したからこそ、そうした頑なな気持ちが変化したのかもしれません。いまでは、基礎であれ、応用であれ、自分の研究がいかに役に立つか、という視点が一つのモチベーションになっています。

梅津)私は当時の指導教員のアドバイスで物理系の研究から工学の基礎研究に移りましたが、理学とも工学とも言い切れない感じに、ずっと中途半端な立ち位置だな、と思っていました。融合研究や学際研究が注目され始めてからは、自分の研究スタンスは間違ってはいなかったんだ、と気持ちが楽になりました。私の興味は今でも、この現象はどうなっているのだろう?と掘り下げていく方にありますね。

金属材料研究所 所長 高梨 弘毅  新素材共同研究開発センター 准教授 梅津理恵

―梅津先生の研究にはどのような期待を寄せていますか

高梨)梅津さんと私は2人ともスピントロニクス材料の研究に取り組んでいますが、梅津さんはその中でもバルク磁性材料を研究対象としています。スピントロニクスは私を含め薄膜を対象としていることが多く、マクロな視点により近いバルク磁性材料の研究は、基礎と応用をつなげるという点でも大変価値があります。これまでは基礎研究が中心だったと思いますが、受賞を機に、応用的な研究にもぜひ取り組んでいってほしいと思います。

梅津)実は同じくスピントロニクスを研究されている先生に、バルクの研究であれば企業との共同研究も多いのではないか、と質問されたのですが、今のところはそんなに多くはないとお答えしたら、とてもびっくりされました。ありがたいことに、受賞をきっかけとして、異分野の方や企業の方などこれまであまり接点のなかった方々とお会いする機会が増え、今まさに視野が広がっていく最中にあると感じています。受賞をしたことで自分の能力が倍増するわけではありませんが、いろいろな方の協力を得て、自分の研究の幅を広げていきたいです。私の研究にも大きくかかわる次世代放射光施設にも将来は関与できればと思います。

高梨)これからはいろいろな依頼がもっと増えてくると思うので、研究に取り組む時間をしっかりととれるようにコントロールすることも重要になってくると思います。

梅津)そこはぜひいろいろとご助言いただきたいです。

高梨)ぜひ遠慮なくご相談ください。

―どうもありがとうございました。

インタビュー 情報企画室広報班(冨松)

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