つとめてやむな 金研若手研究者インタビュー 「努めて止まない」若手研究者に聞く
低温物質科学実験室  准教授 野島 勉

vol.8自分の考えを表現することの大切さ

極低温下でのみ観察できる、物質の秩序。超伝導に代表されるこの特異な現象を明らかにするには、液体ヘリウムは欠かせない存在です。

今回は、学内への液体ヘリウム供給の管理・運用も行いながら、自身も低温実験に従事する野島勉先生に話を聞きました。

低温物質科学実験室のウェブサイトはこちらをご覧ください。)

先輩のいない新しい研究室を選んだ それがすべての始まり

―野島先生は低温物理学*1を専門とされていますが、現在の分野に興味を持ったきっかけはありますか

学部4年生の研究室配属の時に新たに発足する研究室を優先して選んだら、そこがたまたま低温研究の研究室だった、というのがきっかけです。先輩がいないため、横一線でスタートできると思い研究室を選んだので、特に低温の研究に興味があったかといえばそうでもありませんでした。ただ固体物理には興味があったので、どんな研究ができるのか楽しみにしていたのですが、いざ研究室に行くと、待っていたのは装置の作成や研究室の整備でした。つるはしで穴を掘った場所に実験装置を埋めたり、溶接にあけくれながら装置を作ったり、なぜか廊下にヘリウム回収配管を作ったり、と力仕事ばかりで、本当に忙しかったです。

―当時から研究者を目指そうと思っていたのでしょうか

学部生の頃は研究者になるつもりは全くなく、卒業したら定時に終わる仕事について夕方はサーフィンをするんだ!と考えていました。ただ研究を進めていくと、自分が作った装置で最新のデータが出ることが想像以上に面白くなり、研究者の道もありかもしれない、と思い始めました。極低温実験が黎明期だった当時は、誰でもできる研究分野ではなく、冷凍機等の低温装置を作る技術が身についたことで、このスキルさえあれば研究者になってもやっていけるかもしれない!と、どんどん自信がついていったのだと思います。

極低温科学センター 准教授 野島 勉

実験室には自作の装置が並ぶ

―自分で装置を作って成果を出すことが、サーフィンの楽しさを上回ったんですね

そして、大学院に進んだ1986年には高温超伝導フィーバー*2が起こります。超伝導についての最新の研究成果が毎月発表され、理論上ありえないとされていた30K(-243.15℃)以上の高い転移温度を示す超伝導体が、意外と簡単に作れてしまうなど、今までの常識が通用しない現象がたくさん起こりました。すると、昨日まで先生の言っていたことが正しくなくなる、逆に新しいことをやると、学生ですらあまり根拠がなくとも意見を聞いてくれるようになる、という状況になりました。

教員も学生も一人の研究者として対等になれることは自分にとって大変刺激的で、こうした環境も相まって修士2年生のときには研究者の道に進もうと博士課程進学を決意しました。

2次元超伝導物質から 超伝導機構の解明に迫る

―実験室には自作の低温実験装置などがたくさんあります。ここで取り組まれている研究について教えて下さい。

私は超伝導体の中でも、2次元超伝導の研究に取り組んでいます。原子スケールの厚さしかない2次元超伝導体は、3次元超伝導体とは質的に異なる性質を示します。中にはバルクの状態よりもはるかに高温で超伝導転移したり、逆に磁場中で電気抵抗がなかなかゼロにならなかったりするものもあります。長い歴史を持つ2次元超伝導の研究において、10年ほど前までは結晶構造に乱れのない薄膜の実現は技術的に難しく、真の意味での2次元超伝導体の理解は進んでいませんでした。

―きれいな薄膜試料を作る技術が確立したのはごく最近のことなのですね

そうなんです。私の実験室では電気二重層トランジスタという電界効果デバイスを用いて、結晶性にほとんど乱れのない“きれいな”2次元電子系の作製技術を構築し、超伝導機構の解明に迫ろうとしています。

またこの電気二重層トランジスタ構造を用いて、絶縁体や常伝導金属の表層に電子を集め、物質表面だけを超伝導体に変換する研究にも取り組んでいます。これも2次元超伝導の1種ですが、この発想自体は偶然にも自分が学生時代に思いついた方法の一つです。ただ当時は技術がまだ追い付かず、あきらめざるをえませんでした。金研内(当時の岩佐研・川崎研)で行った共同研究をきっかけに再び挑戦する機会に恵まれ、現在の高度な低温技術も相まって早々に成果を得ることができました。今後はこの技術を応用し、新しい超伝導特性や磁気特性を実現させることを目指しています。

極低温科学センター 准教授 野島 勉

「腹がたちます!」と言ったら…自分の考えを表現する大切さ

―ターニングポイントになった経験などありますか

こう見えて、大学院生の時まではしゃべることが苦手で、なかなか自分の意見を言うことができませんでした。それまで体育会系の部活にも所属していたこともあって、先輩や上司の命令には必ず従うものだ、という考えに縛られていたところもあったと思います。

ところが研究室では自分の意見をしょっちゅう求められるわけです。当時の私は自分でも情けないと思うほどしゃべることができず、先生からは「何も意見がないのか!つまらん!」と毎日のように言われ続けていました。さすがに堪えきれなくなった修士1年生のある時、「腹立ちますっ!」と先生に言ってしまったんです。

―それはひどく怒られてしまいそうですが…

ところがその先生は怒るどころか面白がってくれたんです。そこで初めて、ああ、意見を言ってもいいんだ、と自分の考えを言葉で表現することの大切さに気が付きました。

誰かの意見に従うだけでも技術は向上しますが、その方が楽な分、自分で考えることはなおざりになってしまいがちです。考えてみればそこがターニングポイントになって、自分の意見を臆せずに伝えられるようになったと思います。

―最後に学生にメッセージをお願いします

ぜひ学生の皆さんにも、自分の考えや意見を積極的に表現していってほしいと思います。実験にしても何にしても、ただ言う通りにする、初めから誰かに聞く、のではなく、最初に自分で考えることが大切です。やらされているだけ、楽をしたい、と思う気持ちも分かりますが、いずれにしろやらなければならないのであれば、おもしろいほうがいいに決まっています。そのためにはやはり自分で考え、その考えを言葉にしていくことをお勧めします。

研究であれば、自分の実験テーマが研究分野でどの立ち位置にあるのかを知り、どうすべきかを自分で考えて進めることで、実験も充実し、どんどん楽しくなっていくとわたしは思います。ぜひ頑張ってみてください。

―どうもありがとうございました。

極低温科学センター 准教授 野島 勉

 

注釈

2019年7月インタビュー 情報企画室広報班(冨松)

※教員の所属およびインタビュー内容は取材当時のものです。

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