つとめてやむな 金研若手研究者インタビュー 「努めて止まない」若手研究者に聞く
一般財団法人総合科学研究機構(CROSS) 副主任研究員 松浦 直人

vol.7未知の現象を追及する楽しさ

今回は中性子センターの共同利用にも深い関わりを持つ

一般財団法人総合科学研究機構(CROSS)の副主任研究員、松浦直人さんに話を伺いました。

一般財団法人総合科学研究機構(CROSS)中性子科学センターのウェブサイトはこちらをご覧ください。)

中性子線施設の活用促進を目指す

―松浦さんは東北大や金研でも研究されていたと伺いました

東北大学の理学研究科を卒業した後、金研には2年間ポスドクとして、さらに助教着任時に3年間在籍していました。金研は若手研究者の活動が活発だったことが印象的です。スポーツ大会なども盛んでしたし、若手教員が集まる助手会では様々な分野の研究者と話ができ、楽しい研究生活を送った記憶があります。

―現在は茨城県にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)内で研究されています

私が所属する一般財団法人総合科学研究機構(CROSS)は、J-PARC内にある大型中性子線施設「物質・生命科学実験施設(MLF)」の共用促進のために研究支援活動を行う組織です。中性子線は物質の構造を大変精度よく解明できる実験手法です。例えば、目に見えない磁場の観察、X線では観察が難しい水素の挙動、透過力の高さを生かしたリアルタイムイメージングなどは、中性子実験の得意とするところです。現在私は中性子実験装置を使った自身の研究に取り組みつつ、MLF利用する研究者(ユーザー)の選定や支援にも携わっています。

CROSS 副主任研究員 松浦 直人

―中性子実験ですが、研究者ならだれでも利用できるのでしょうか?

中性子実験が可能な場所は世界でも限られているため、研究者は国内外の中性子実験装置を共同で使用しています。装置を使用する場合は申請が必要で、使用できる時間(マシンタイム)も限られていますが、物理、化学、材料科学、生物学などの学術研究から産業応用まで様々な分野における最先端の研究がこのMLFで行われています。 現在MLF内には、利用目的に応じた解析能力を持つ共用ビームラインが7種類、加えて他研究機関が建設する専用ビームラインも設置されています。金研の偏極度解析中性子分光器POLANOも2018年に設置されました。

―金研の装置も設置されているのですね

様々な特徴を持つ中性子実験装置を建設するとともに、それを多くのユーザーに使用してもらうことで、物質・生命科学研究を発展させていくことがMLFの重要な役割です。2019年にはCROSSと金研が連携協力協定を締結し、中性子実験のさらなる拡大を図るべく様々な面で連携を始めています。

中性子研究はハンティング?!

―松浦さんが取り組まれている研究について教えてください

共用ビームラインのうちうちBL02;能性材料中の原子運動や磁性体中のスピン運動の測定を得意とするダイナミクス解析装置(名称:DNA)を使った研究開発に取り組んでいます。具体的にはリラクサー強誘電体や分子性有機導体の格子ダイナミクスを主な研究対象としています。リラクサー強誘電体は医療機器用の超音波検出器などに使われている強誘導体の一種で、非常に高い圧電・誘電応答を持つのが特徴です。こうした機能特性の発現は、物質のマクロとミクロの中間領域、すなわちメゾスコピックスケールにおける不均質な構造が大きく影響しています。中性子実験はこの中間領域の解析をまさに得意とし、私はリラクサー誘電体のメゾスコピックスケールでの格子ダイナミクスを解析することによって機能性の起源を明らかにしようとしています。

―中性子研究の魅力はどのようなところに感じますか

中性子研究は一言でいうと、ハンティングに近いと感じます。見たいもの(ある物質の構造や揺らぎ)と手法(中性子散乱装置)は決まっていますが、見たいものとらえるためには自分の持つ技術と物質に関する知識をもとに考えなければならなりません。獲物がいても、道具の使い方や獲物の探し方、追い込み方を誤ると、見逃してしまう。しかも、制限時間(マシンタイム)もあります。いろいろな制約の中で、自身の技術と知識を集積し、見たいものをとらえる。そうした経験の積み重ねが測定の精度向上につながっていくところが、中性子実験の大変面白いところだと思います。

CROSS 副主任研究員 松浦 直人

未知の現象を自らの手で追求する楽しさ

―研究者を目指したきっかけはありますか

これまでわかっていなかった現象を自分で明らかにすることに研究の面白さを感じたからです。学部生までは研究者になろうとか、企業で働きたいといった明確なビジョンは特にありませんでした。学生実験や研究室で研究に取り組む機会が増えると、未知の現象を自らの手で追求できることが楽しいな、と思うようになっていました。 また我々が取り組んでいるような物性物理学は、素粒子や天文学などの分野と比較すると研究の規模はそこまで大きくありません。その分、興味のあるテーマについて、研究者自身がすべての実験状況を把握しながら研究を進めていくことができます。もちろん巨大規模プロジェクトの一端を担う面白さもあると思いますが、私の場合は自らの手で追及していく感覚がより強く感じられる物性実験に魅力を感じています。

―最後に学生へのメッセージをお願いします

好奇心を大切に、ぜひいろんなことに挑戦し、またそれを楽しんでほしいと思います。モチベーションを維持し続けることは結構大変なことで、やる気を失っている時期は心理的にとても苦しいですよね。そういう時こそ、自分の興味があることにどんどん接してみることをお勧めします。世界が広がる中で、自分が楽しいと思うことがきっと見つかるはずです。

CROSS 副主任研究員 松浦 直人

―どうもありがとうございました。

2018年12月インタビュー 情報企画室広報班(冨松)

※教員の所属およびインタビュー内容は取材当時のものです。

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