つとめてやむな 金研若手研究者インタビュー 「努めて止まない」若手研究者に聞く
計算材料学センター  准教授 鈴木 通人

vol.6スパコンでつながる、 ミクロとマクロの世界

一般的なパソコンとは比べ物にならないほどの超高速な計算能力を持つスーパーコンピュータ、通称スパコン。

新しい物質・材料の発見には、スパコンが得意とするシミュレーションが役立てられています。
今回はスパコンによって電子の世界の秩序を解き明かそうとする、計算材料学センターの鈴木通人先生に話を聞きました。

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スパコンが身近にある生活は、 新鮮

―鈴木先生はスーパーコンピュータ(スパコン)を利用した研究に取り組んでいらっしゃるとのことですが、はじめにこれまでのご経歴を教えてください

    大学は京都産業大学(学部)、大阪大学(修士)、神戸大学(博士)と3つの大学で学びました。その後、ウプサラ大学のオングストローム研究所に約3年間在籍し、原子力研究所と理化学研究所を経て、金研に着任しました。

―多くの大学や機関で研究をされてきた中で、金研はどのような環境でしょう

    わたしが現在在籍している計算材料学センターは、1階にスパコン、2階に私を含むセンター職員のオフィスがあります。スパコンは普通、自分のパソコンからネットワークを通じて他の場所にあるものにアクセスして使うので、ここまで身近にある環境は初めてで新鮮です。システムに精通した優秀な技術職員の方達と一緒の職場なので、スパコンの管理・運営はもちろん、研究の面でも彼らに相談できるのはとても心強いですね。

計算材料学センター 准教授 鈴木 通人

研究は ロールプレイングゲーム?!

―研究の面白さや大変さはどのようなところに感じますか

    子供の頃にテレビゲームにはまっていた時期がありますが、研究はロールプレイングゲームに似ているな、と思うことがあります。知りたいことや達成したいことに向けて小さな課題をこつこつとクリアしていかなければいけない。その解決法がわからなくて悩み、堂々巡りで何度も似たようなことを繰り返したりする中で、ふと試したことがきっかけとなって新しい展開が生まれたりする。そんな面白さが研究にもあると感じます。研究は自然に潜む未知の事柄を対象としていて本当に解決できる保証もないという点で、人によって作られた舞台でクリアできることが保証されているゲームより数段面白く、また大変だとも思います。

―鈴木先生はスパコンを使ってどのような研究に取り組んでいるのでしょうか

    私は第一原理計算手法による物性の研究を専門としています。第一原理計算とは、実験による情報を使用せずに、原子スケールのミクロな世界の法則を記述する量子力学に基づいて、物質の性質を支配する電子の状態を求める方法のことです。物質が原子の集合体であることはよく知られていますが、原子はさらに原子核と電子から構成されています。膨大な数の原子からなる物質中の電子がどのような状態をとるかによって、電気を通すか通さないか、磁石になるかならないかなどといった多くの性質が決まります。この第一原理計算による研究をスパコン上で行うことで、物質中で起こる、より複雑な現象を効率的に研究することが可能になります。
私の研究では、このような計算機の力を利用した第一原理計算と合わせて様々な数学手法を活用することで、複雑な物質中の電子状態の情報を多角的に解析し、ミクロな世界における電子の状態が、マクロな世界の物性に及ぼす影響を調べています。

計算材料学センター 准教授 鈴木 通人

スパコンと数学がつなげる、 ミクロとマクロの世界

―電子の状態が変化すると物質の性質までも大きく変化するとのことですが、具体的にはどういった現象をみているのでしょうか

    原子核を取り巻く電子は、古典的なイメージとして、どちらの方向に自転するかというスピンと呼ばれる自由度と、原子核を中心とした公転運動をどのように行うかという軌道と呼ばれる自由度を持っています。この電子は物質中で複数の原子核や他の電子と作用し合ってさらに大きな自由度を獲得し、その非常に大きな自由度の中で、一番安定な状態を取ろうとします。この「最も安定な状態」を作る時に、電子の持つ自由度の中で特定の「偏り」を持たせた方が安定な場合があり、この偏った状態のことを「秩序」と呼びます。秩序の発現は物質の磁性や伝導性といった性質と密接に関係しています。例えば、磁石になる物質中では、特定のスピンを持つ電子の数が多くなった、スピンの秩序状態が実現しています。

―だから電子の世界を理解できれば、物質の性質も理解できるのですね

    第一原理計算では、物質の磁性や伝導性といった性質を電子レベルで調べることができますが、調べる状態が複雑になればなるほど、ミクロスケールの電子の状態がマクロな物性としてどのように現れるのかもわかりにくくなります。複雑な秩序はそのような電子の状態の一つであると言えます。電子の秩序を特徴付ける対称性や物質に内在するトポロジー、結晶中の電子の電気的・磁気的な自由度を指す多極子といった観点から、電子の状態を多角的に解析することで、ミクロスケールの複雑な現象が、マクロの世界に及ぼす影響を効率的に調べることができるのです。
ただし、スパコンを使って自分が知りたい問題の答えを得るためには、理論や計算手法、プログラミングから自分で考えて研究しなければなりません。第一原理計算を物質中の複雑な秩序と物性の理解に向けた研究に適応できるよう、新しい理論やプログラムを開発するのも、私の仕事の一つです。

計算材料学センター 准教授 鈴木 通人

研究者にも さまざまなタイプがいる

―研究者に向いているタイプ、向いていないタイプというのはあると思いますか

    結局は研究を楽しいと思えるかどうかではないでしょうか。研究者といっても本当にいろいろなタイプの人がいます。実験が好きな人もいれば、理論が面白いという人もいる。一つのことを長い年月をかけて突き詰める人もいれば、いろいろなことに興味をもって取り組む人もいる。私はこれまで多くの大学・研究所で研究してきたことで色々な研究者と出会う機会に恵まれました。研究スタイルや興味を持つ研究分野、研究に対するモチベーションに至るまで、いろいろな方がいると感じています。

―大学生や高校生のうちに、これはやっておいたほうがよいと思うことはありますか

    できるだけ早いうちに自分がやりたいことを見つけておくといいと思います。そのためには、時間があるときにいろいろなことに挑戦してみることが大切だと思います。私は中学・高校とずっと続けていたバスケットを大学に入ってからやめてしまったので、熱中するものがなくなってしまい、やりたいことを模索してアルバイトや勉強など、いろいろなことに取り組んだ時期がありました。結果、物理に興味を持って今に至りますが、自分が何に興味を持っているかは、実際に取り組んでみないとわからない部分もあると思います。自分のやりたいことが明確になったら、そのために何をすべきかを考え、行動に移していくことで道が開けていくと思います。ぜひがんばってください。

計算材料学センター 准教授 鈴木 通人

―どうもありがとうございました。

2018年7月インタビュー 情報企画室広報班(冨松)