つとめてやむな 金研若手研究者インタビュー 「努めて止まない」若手研究者に聞く
先端エネルギー材料理工共創研究センター  特任教授 河野 龍興

vol.5常識にとらわれない果敢な挑戦を

理学と工学が連携する金研では、基礎から応用に至るまで幅広い材料研究が行われています。
今回は、そうした金研の研究を活かして今までにないエネルギーシステムを創ろうと奮起する、
先端エネルギー材料理工共創研究センター(E-IMR)の河野先生にお話を伺いました。
E-IMRのWebサイトはこちらをご覧ください。)

想像と努力と偶然が生んだ全く新しい合金

―金研にいらっしゃる以前はどのような仕事をされていたのでしょうか

   修士課程を卒業後、電機メーカーの研究所で、水素の製造・貯蔵の研究と、充放電ができるニッケル水素電池の材料開発から製品立ち上げまで携わりました。ニッケル水素電池では水素を吸収する性質がある水素吸蔵合金が使われています。この合金に多くの水素を吸蔵できるほど電池の高容量化ができます。私は従来存在しなかった全く新しい結晶構造を持ち、より多くの水素を吸蔵できるLa-Mg-Ni系水素吸蔵合金を発見しました。

―水素吸蔵合金、、一般的にはあまり聞かない言葉ですが、既に広く使われているのですね

   この水素吸蔵合金を使用したニッケル水素電池は製品化され、現在も充電池やハイブリット自動車などに使われています。通常、材料研究の成果は産業化まで20年、30年かかることが多いですが、この場合、開発から製品化まで約10年と大変スピーディーな成果となりました。

―初めから製品化できる構想があったのでしょうか

   こういう結晶構造を作れれば、今よりも多くの水素を貯蔵できるだろうというイメージはありましたが、どういった元素の組み合わせでできるのかは検討がついていませんでした。何十種類もの元素の組み合わせで合金を作っては失敗の繰り返しです。ある時、いつもは捨ててしまう失敗作の合金の構造を確認してみようと思いました。すると自分が思い描いていた結晶構造が部分的ではありますが含まれていたのです。

E-IMR 特任教授 河野龍興

(図下)開発したLa-Mg-Ni系水素吸蔵合金の結晶構造。規則的な格子構造になっているため、水素原子を効率的に吸蔵できる。[引用元: Materials Transactions, Vol. 46, 1393-1401 (2005)]

―確認しようと思ったのはたまたまだったのですか?

   はい。本当に偶然の発見でした。LaとNiにマグネシウム(Mg)が加わったこの新規AB3-4組成は水素吸蔵・放出は難しい、つまり定説であった安定性逆転の法則に則ると水素吸蔵放出特性が低い合金組成だと言われていました。もし理論上難しいということで実験をあきらめていたら、新しい水素吸蔵合金は生まれなかったかもしれません。

衝撃だった離島のエネルギー事情

―E-IMRでも水素吸蔵合金に関わる研究をされているのですか

   研究テーマの1つは新しい水素貯蔵合金の探索、もう1つは太陽電池などの再生可能エネルギーを活用した水素エネルギーシステムの構築と高性能化です。前職では小規模なホテルですが、太陽光発電から得た電気を蓄電池と水素を利用して蓄え、年間を通じて完全自給自足できる発電システムの構築に成功しました。

―小規模とはいえ、既に成功事例があることに驚きました

   E-IMRでは更に新規材料技術開発を投入してシステムの高効率化・高性能化を実現し、東北地域で是非とも成功させたいと考えています。金研は材料研究のレベルが非常に高く、E-IMRではその技術を持ち寄ってエネルギーシステム研究へと展開できるところが何よりの魅力です。

―お話を伺っていると、水素エネルギーシステム確立への熱い思いが伝わってきます。なにかきっかけがあったのでしょうか

   日本にはおよそ400島以上の有人離島があり、多くの場合、島内の電力はディーゼル発電によってまかなわれています。台風の通り道にある離島では、台風が直撃すると停電し、本島からの船便もストップするため、発電に必要な燃料も底をついてしまいます。南の島国で夏場に電気が1週間も使えないという状況を想像できますか?エアコンはおろか扇風機さえ使えません。家の中だと暑いため、島の人は外に出て生活します。エネルギー供給が天候や災害に左右されながらもメディアに報道さえされず、日常生活もままならない状況が存在することを知った時はとてもショックでした。

ALL JAPANで目指す水素エネルギーシステムの確立

―水素エネルギーシステムの特徴としくみを教えてください

   本システムの最大の強みは、太陽と水さえあれば電気を完全自給自足できることです。太陽光発電で得た電気は直接利用するだけではなく、蓄電池へ貯蔵し、水素製造装置を稼動させ、水から水素を発生させたりします。作った水素は水素吸蔵合金に貯蔵され、需要に応じて燃料電池へと供給して電気と熱を得ることができます。

E-IMR 特任教授 河野龍興

水素吸蔵合金タンクは水素ガスタンクよりも約1/10に小型化、蓄電池よりも1/50ほどのコストで製作できる

―システムが確立できれば、様々なエネルギー問題を解決できそうですね

   夏場は太陽光発電の出力が高まるため、余剰電力を活用して水素の製造・貯蔵ができ、冬期には夏期に貯蔵した水素でエネルギーが得られます。再生可能エネルギーのシーズンシフトによって、安定した電力の利用が可能となるのです。離島の人達やエネルギー状況が厳しい地域の方も安心して暮らせるように、水素エネルギーシステムをできるだけ早く確立したいと思っています。それが今の私の原動力になっています。

―システム実現に向けての抱負や課題を教えてください

   できれば10年以内に、多くの自治体に水素エネルギーシステムを導入して頂きたいと考えています。大きな災害があっても、どんな離島でもエネルギーを生み出せるまさに理想のシステムですが、より多くの導入を実現するためには基礎研究を行う大学、製品化を担う企業、システムを取り入れる行政、この全てで密接な連携が必要不可欠です。各方面の方々のご理解を得ていくことが今後の大きな課題となっています。日本の未来のためALL JAPANで!と呼びかけて、実現につなげたいと強く思っています。

常識や憶測にとらわれずに果敢なチャレンジを

―大学院卒業後、企業に就職する学生にメッセージをお願い致します

   企業へ就職される方は、気軽にまた大学へ訪ねてきてください。私も修士課程修了後に就職しましたが、仕事をしながら学位を取得しました。大きな企業での研究部門の方は学位を持っておられる方が多いです。企業の研究職ではより高度な知識が必要とされますし、海外で活躍するためにもチャンスがあれば学位を取得された方が良いです。

―これから活躍する若手研究者にはどのようなことを期待されますか

   若手研究者の方は、従来の法則をひっくり返すような突拍子もない研究をしてやろう、そんな意気込みでチャレンジしてほしいです。現代のように情報が氾濫していると、自分がやっていることの先がある程度見えてしまう、そんな風に思う人もいるかもしれません。しかし理論上はありえないからとあきらめていたら、私が発見した水素吸蔵合金も生まれなかったでしょう。 新しいシステム、高性能な製品をつくろうとすると、必ず材料に行きつきます。私が取り組んでいるエネルギーシステムも、結局は新しい材料の開発が成功しなければ高効率化は実現しません。科学と社会の発展は材料が支えているといってもいいくらい、材料研究は重要な分野です。ぜひ常識や憶測にとらわれずに果敢に挑戦していってほしいです。

E-IMR 特任教授 河野龍興

―どうもありがとうございました。

2018年1月インタビュー 情報企画室広報班(冨松)