つとめてやむな 金研若手研究者インタビュー 「努めて止まない」若手研究者に聞く
附属産学官広域連携センター  特任准教授 網谷 健児

vol.4現場と共に育むものづくり

研究者の仕事は、何かを発見して論文を書くということだけではありません。
研究の課程で得られた経験や知識を産業界に活かすということも、重要な役割の一つです。
今回はそうした企業支援に携わる、産学官広域連携センターの網谷先生にお話を伺いました。
附属産学官広域連携センターのWebサイトはこちらをご覧ください。)

衝撃的だったアモルファス合金との出会い

―網谷先生は元々企業にお勤めになっていたと伺いました。

   機能素材メーカーの研究員として金属ガラスワイヤーの製造装置開発、プラント立ち上げ、生産管理まですべてのプロセスを担当していました。実際に炉を管理し、現場の人と一緒に話し合いながらものづくりの開発から生産まですべて経験しました。

―初めから企業の研究職を目指されていたのでしょうか。

   研究職を目指そうというよりは、自分でものを作って商品にすることに昔から興味がありました。皆さんも小さいころに、バイクを作りたいとか、飛行機を作りたいとか、そういった憧れがあったかと思いますが、私は何か新しいものをつくりたいと思っていたんです。そして大学3年生のときの学生実習で、単ロール法によるアモルファス合金※1薄帯の作製があったのですが、飛んでくる薄帯を見た瞬間に、「あ!これだ!!」と。

―ぴんときた何かがあったのですか。

   金属を溶かし、新幹線のスピード以上でまわる銅ロールに吹き付けるだけで、アモルファス合金薄帯が一瞬でできる。このプロセスは衝撃でした。それ以来、アモルファス合金の製品開発をしたいと強く思い、学部4年生ではアモルファスの研究室に行きました。

産学官広域連携センター特任准教授 網谷健児

感動を味わったアモルファス合金薄帯を作製する液体急冷装置の前で

―それ以来ずっとアモルファス合金の研究をされているのですか。

   いや、実は成績があまりよくなくて修士は希望の研究室に行けなかったのです。アモルファス合金の研究ができずもんもんとしていた時に、アモルファス合金ワイヤーの製品開発をしている会社があると先生から紹介してもらい、就職することを決めました。とはいえ、修士の時に取り組んでいたニオブの電解精製の研究も今の仕事に大変役に立っているので、人生分からないものですね。

現場を経験したからこそ分かる企業ニーズ

―産学官連携センターは企業への技術支援を目的としていますが、実際にどういった支援をされているのでしょうか。

   「目的の品質のものがなかなか作れない」「もっと生産効率を上げたい」といった企業の方の相談に、製造プロセスを見直してアドバイスします。企業に勤めていた時にものづくりの全工程を経験したお陰で、どこを改善すればいいのかは大体わかります。トップの方とお話するだけではなく、現場を見ながら、改善点を提案します。あとは自分で考えた試作品の材料を企業の方に紹介して共同開発も行います。

―開発していらっしゃる材料は例えばどのようなものでしょう。

   主にアモルファス合金・金属ガラスなどを実用化するための合金の探索、作製プロセスや加工方法の研究開発を行っています。例えば塩酸につけても錆びない高耐食性アモルファス合金ロール、磁気ひずみの高いアモルファス合金を使った回転トルクセンサーなどがあります。磁気ひずみとは磁場の影響によって磁性体の形が変化することで、「磁(じ)歪(わい)」ともいいます。トルクセンサーに使用されているアモルファス合金は磁性体で、この磁気ひずみの性質を逆に利用しています。

産学官広域連携センター特任准教授 網谷健児

アモルファス合金を使った回転トルクセンサー(右)

―なぜ磁気ひずみが高い合金をセンサーに使う必要があるのでしょうか。

   皆さんが目にするトルクセンサーとしては、電動アシスト自転車があります。ペダルを漕ぐとセンサーに力が加わり、形が歪みます。するとセンサー中の磁性体の透磁率※2が変化します。ペダルを踏み込んでいる力はこうして検出され、モーターによる自動アシストを可能にしているのです。私の開発した材料は、高い磁気ひずみと高い透磁率を両立しているので、少しの力で透磁率が大きく変化して、高感度・高応答性のセンサーになります。 トルクセンサーに使用したアモルファス合金は、実は10年前の博士論文の成果です。学術的な意義はあまり高くなく、その時は注目されなかったのですが、自分の中ではニーズがあると確信していました。今回開発につなげられたことはとてもうれしいです。

信頼関係が育むものづくりの現場

―研究の醍醐味を教えてください。

   経営者や開発担当の方だけと打ち合わせするのではなく、ものづくりが行われている現場に足を運び、現状を目でみて一緒に実験をする。その過程で、開発のトップから現場の方と信頼関係を築き、協力し合いながら実用化に結びつける。これが何よりの醍醐味です。本多先生が残された「産業は学問の道場なり」という言葉は、私の大好きな言葉ですね。

―最後に、大学を目指される学生さんへのメッセージをお願いいたします。

   大学を目指すなら、ざっくりでよいですから、「私は将来どんなことをしたいのか」、それを考えて欲しい。大学は手段であって、目的ではありません。人生全て思った通りに物事が運ぶわけではなく、私自身、紆余曲折ありました。それでも言えることは、何をしたいでもなく漠然と過ごした4年間と、目指すものをもって過ごした4年間は明らかに違います。大きな夢を抱えて大学を目指してください。

―どうもありがとうございました。

産学官広域連携センター特任准教授 網谷健児

兵庫オフィスメンバーの馬伏さん(技術補佐員)、五十嵐さん(事務補佐員)と一緒に。

注釈

2017年9月インタビュー 情報企画室広報班(横山)