つとめてやむな 金研若手研究者インタビュー 「努めて止まない」若手研究者に聞く
量子ビーム金属物理学研究部門  准教授 南部雄亮

特別インタビュー物理の「美しさ」に導かれて

今回は平成29年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞された南部雄亮准教授の特別インタビューです。

研究が楽しくてしょうがないという南部先生に、研究者を目指したきっかけや、恩師との出会い、そして研究の醍醐味などを伺いました。
(南部先生所属の研究室量子ビーム金属物理学研究部門のウェブサイトはこちら

物理との出会いと部活に熱中した高校生時代

―研究者を目指そうと思ったきっかけが「物理を美しく感じたこと」と伺ったのですが、、いったいどういうことでしょうか。

   高校で履修した物理で、世の中の現象が数式で説明できるということに感動したんです。例えばボールを投げたときの放物運動というのは、水平方向と垂直方向に運動を分けて、その時間変化を追うことでその後のボールの動きを予測できますよね。物理の公式は、そうした近似式をつかって計算を進めていくと、結果的に非常にシンプルな式になる。これを知ったときに、「ああ美しいな」と。その頃から漠然と物理を研究したいなとは思っていました。

―そこから必死に物理を勉強された?

   実はそうでもなくて、高校3年間はほとんど部活しかやっていませんでした。吹奏楽部でクラリネットを演奏していて、全国大会にも出場するくらいの強豪校だったので、毎日練習ばかりしていましたね。なので、三年間クラリネットしか吹いていません。2年生で理系か文系かを選択するときには、物理と日本史が好きだったんですが、やはり物理を勉強したいなと思って理系に進みました

量子ビーム金属物理学研究部門 准教授 南部雄亮

 

研究が進展する様を目の当たりにした大学院

―大学に進まれて、研究者になろう!と決め手になった経験はありましたか

   明確なタイミングがあったというよりは、出会った先生や研究環境に影響され、徐々に研究の道に惹かれていった、というほうが近いかもしれません。 大学は北大に進み、4年生の研究室配属では物性理論の研究室を選択しました。理論研究は実験ではなく計算によって物理現象の法則性を見つけたりモデル化したりする研究スタイルを取ります。

―いまのように実験をする研究室ではなかったのですね

   将来的には実験することを視野に入れつつ、まずは理論構築の基礎を学ぼうと思っていました。修士課程はいよいよ実験ができる研究室に行こうと思い、中でも自分で試料作りから測定までできる京大の研究室に進学しました。研究室では、中辻講師(現:東大物性研教授)のもとで、今までにほとんど物性測定がされたことのない新しい磁性体を合成し、研究がどんどん進展していく様を目の当たりにしました。こうした環境もあって博士課程進学を志すようになり、研究者を目指そうと思い始めました。 研究対象としては、磁性体や超伝導などスタンダードな物性物理に興味を持ち、それら物性を解明するための有力な手法としてこのとき中性子散乱法に出会いました。

物理現象を精度よく理解できる中性子散乱法 

―「中性子散乱法」とはどういったものなのでしょうか

   中性子散乱法は物質の構造や動的性質を直接的に調べることのできる分析法の一つです。中性子とはご存知のように、原子核内に必ず含まれている粒子です。中性子散乱法に使用される中性子は、核分裂反応から得られる自由中性子を用います。試料にこの中性子をあて、散乱される中性子線を測定して試料中の結晶・磁気構造や動的物性を調べる方法です。

―中性子線を測定するだけで原子の構造が分かるのですか?

   試料に照射された中性子は試料中の原子核やスピンと衝突して、様々な方向に向きを変えます。このとき、中性子は適当に向きが変わるのではなく、原子の配列によって特定の方向に向きが変わります(中性子回折)。この散乱する中性子をとらえて回折する方向を測定し、そのパターンを解析することで、様々な物質の構造を精度よく解明できるのです。

量子ビーム金属物理学研究部門 准教授 南部雄亮

恩師との出会いが今につながる

―中性子実験は学生の頃から取り組まれていたのですか?

   実は本格的に中性子散乱法に取り組んだのは博士研究員になってからでした。 大学院時代から共同研究を行っていたアメリカJohns Hopkins UniversityのCollin Broholm教授に誘われ、学位をとった後すぐ1年間海外学振特別研究員として滞在しました。Broholm教授は中性子といえばこの人と言われるくらい、中性子研究の世界では権威のある方です。大学時代に行っていた磁化率、比熱などの巨視的な物理量に比べ、中性子で得られる情報は微視的ではるかに有用です。それらを理論計算で比べることで、物理現象を理解しようとしている。まさに高校のときに感じた物理現象の数式的理解を最先端で行えている感じがしました。

―Broholm教授との出会いはその後の研究に大きな影響を与えたのですね

   研究分野だけではなく、研究者としての生き方も生涯の目標となるくらい多く影響を受けました。Broholm教授はハードワーカーではあるのですが、夕方になれば家に帰り、翌日早朝から仕事をするというメリハリがありました。一方、私と一緒に実験をすると必ず終わるまで一緒に遅くまで残る。研究もスキルを積むために経験を重視して、失敗してもいろいろなことをやらせてくれました。元々デンマークからアメリカに来られたということもあり当初は色々苦労されたようですが、その分私のように渡米した人間にも理解があり、アメリカの生活になかなかなじめなかった妻のことまで気にかけてくれました。本当に人格者だと思います。20代のときに目標とする研究者の下で研鑽を積めたことはとても幸運なことでした。

緻密な作業が生み出す成果

―ご用意していただいたサンプルがあるのですが、これは何でしょう

   これはNiGa2S4の単結晶で、今回の受賞にも関係している研究の試料です。物質の性質を正確に測るためには、結晶方位が揃った単結晶であることが重要です。結晶が大きいほど、検出できるシグナル強度も大きくなるので、より正確な測定値が出るのですが、大きな単結晶を作ることはとても難しい。そこでNiGa2S4の単結晶を150個ほど、アルミニウムのプレート上に並べました。各結晶の辺のうち、キラッと光って直線になっているところがあるのがわかりますか?


量子ビーム金属物理学研究部門 准教授 南部雄亮

(左)NiGa2S4単結晶を並べた実験プレート。結晶方位が揃っているため1つの大きな擬似単結晶として測定ができる。実験のために同様のプレートを8枚作成、合計150個の結晶を並べた。(中央)結晶方位が揃っている精度を表したグラフ。(右)作成したプレートは写真のように重ねて中性子を照射する。

―うーん、、そういわれてみればそうみえる気がします。

   このまっすぐな辺は、結晶の対称性で許される唯一きれいに切れる箇所で、結晶が必ず同じ方位を向いていることを示しています。プレート上には一見ばらばらに結晶が置いてあるように見えますが、実はこのまっすぐな辺の向きをすべてそろえて置いてあります。つまり結晶方位が全て同じ向きにそろった1つの大きな擬似単結晶として測定できるというわけです。このグラフは結晶方位が揃っている精度を表していて、モザイクと呼ばれる数値(ピークの幅に対応しています)が小さければ小さいほど(つまり、ピークが鋭ければ鋭いほど)方位のズレが少なくなります。通常の数値は2-3度程度ですが、この試料は1.7度。150個並べた割には方位のズレが少なく、より精度の高い測定ができる試料ということです。

―とても根気がいる作業ですね、、この試料の作成にはどのくらい時間がかかるのですか?

   試料の合成に半年近く、結晶を並べるのに週間ほどかかりましたね。Broholm教授にも「すごいよ!僕たちにはできない!」と驚いていました。まさに日本人らしい仕事の仕方なんでしょうね(笑)。これを写真のように数段に重ねて中性子を照射し、出てきたシグナルを計算して物質の性質を明らかにしました。


 

新発見をもとめ、世界をまたに駆ける

―中性子実験は限られた所でしかできないとのことですが、研究生活で大変なことはありますか

   国内で中性子実験ができる所は、茨城県東海村の1箇所しかありません。そのため半年に一回ある申請時に実験提案書を提出して、採択されれば装置を予約(ビームタイムを取得)し、この数日間から一週間程度の限られた日数の中で結果を出す必要があります。そのため、実験期間は24時間フル稼動。準備だけでも相当の時間がかかりますし、自動で切り替わるパラメーター以外に、例えば印加電流などは手動で切り替える必要があるので、ずっと装置につきっきりです。

―今までに実験を失敗したことはあったのでしょうか。

   あります、あります。私の研究では、通常の温度変化だけの実験に加えて、試料に電場をかけたり、電流を流したりと難しい条件で実験を行うことが多いんです。ある時試料に電流を流すと発熱し、それが冷凍機の冷却能力を上回ってしまって温度がまったく下がらないということがありました。何度かトライしても同じようになってしまい、実験にならないのであきらめるしかありませんでした。半年に一回しかない実験のチャンスを無駄にしてしまったことに加え、滞在費などもかかっていますから、いろいろとショックでしたね。

―実験施設までも遠く大変なことも多そうですが、研究の醍醐味はどのようなところに感じますか

   徹夜なども多くしんどい時もありますが、得られる情報は必ず努力に見合うのでやりがいがあります。世界で初めて観測した結果をリアルタイムで見たときや、解析を通してこれまで世になかった知見を得られたときの感動はひとしおです。 実験のために海外にも多く出張します。国外施設での実験をとおして友人も増えますし、必要性から英語の上達も早い。世界を股にかけているような研究であることもまた面白さの一つですね。


量子ビーム金属物理学研究部門 准教授 南部雄亮

金研の環境と自分の強みを活かして

―金研にはどのような中性子の実験環境があるのでしょうか

   所属している藤田研では粉末回折計や三軸分光器、J-PRACにKEKと建設している偏極中性子の分光器も管理して、多様な解析が出来る装置が揃っています。自身のこれまでの経験と強みを活かして、装置責任者である粉末回折計を用いた結晶構造・磁気構造解析や動的性質(励起)の解明に取り組んでいます。

―具体的に金研ではどのような研究に取り組んでいらっしゃるのでしょうか

   金研に来てからは、スピントロニクス基盤物質の磁気励起を調べる実験を齊藤研と一緒に始めました。中でもY3Fe5O12 (YIG, Yttrium Iron Garnet)はスピントロニクス研究でもよく利用されていますが、実のところ磁気励起の観察は40年ほど前に報告されたきりで、定量的には未解明な部分が多いんです。そこでJ-PARCなどの高強度な中性子源が使える今の時代だからこそできる実験で、自分でスピン波計算もしながら磁気励起の全体像の解明を目指しています。

基礎から応用へ 分野を超えた貢献を目指す

―これからの豊富や取り組んでいきたい研究について教えてください

   材料研究や他の分野でも、物質の構造を決めるために中性子実験は多く利用されています。しかしそれだけではなく、物質の性質理解にも中性子は非常に有用なツールです。今まで中性子を使ったことがない研究分野でも、私の研究がその分野の進展に貢献できるのではないかと考えています。特に金研では基礎から応用研究まで幅広い研究が精力的に行われています。これまで目を向けていた基礎研究から応用研究にも視野を広げて中性子実験で役に立てる方法を探っていきたいと思います。

―最後に大学院や研究者を目指す高校生や大学生にメッセージをお願い致します

   震災以降、日本では研究用原子炉JRR-3が再稼働できておらず、中性子実験はJ-PARCでのみ行えている状況でした。最近、JRR-3の再稼働が間近であるとアナウンスされ、我々はそれに向けて装置の準備を整えている段階です。JRR-3が使えなくなり、一時日本の中性子研究も衰退しそうになりましたが、再稼働を好機としてJ-PARCとの二頭体制で中性子研究を盛り上げていきたいと考えています。金研は装置を多く管理する日本で最大級の中性子研究拠点であり、世界に伍した最先端の中性子研究を行うことができます。物質・材料研究の金研で、微視的研究に威力を発揮する中性子をぜひ使ってみませんか。



量子ビーム金属物理学研究部門 准教授 南部雄亮

―どうもありがとうございました

2017年6月インタビュー 情報企画室広報班(横山)