古河電気工業株式会社 研究開発本部 サステナブルテクノロジー研究所 高周波エレクトロニクス技術センター
東北大学大学院理学研究科 物理学専攻博士後期課程修了(2020年) 金属材料研究所 低温物質科学実験室(野島研究室)
金属材料研究所(金研)は、材料科学の基礎から応用にわたる教育活動を展開し、これまで多くの優秀な人材を輩出してきました。今回は金研のOB(2020年博士卒、野島研究室)であり、現在古河電気工業株式会社でご活躍されている大内拓さんに野島研究室の白井と工藤がお話を伺いました。
私は現在、古河電工で通信分野における研究開発の仕事をしています。古河電工では情報通信や電力インフラ事業から電装エレクトロニクス、樹脂製品まで幅広く事業を展開していますが、情報通信ソリューション事業においては光ファイバケーブルをはじめ、光半導体やルータ・ネットワーク機器なども製造しています。私はネットワーク機器などの高速通信を実現するための技術開発や製品の設計支援をしています。
私の就職活動の軸は、研究室生活で培った論理的思考力や分析力などの素養を活かせることと、社会に貢献できるような仕事がしたいというものでした。研究テーマの低温物性に限らず、研究開発を行う半導体や電気電子系の企業など幅広い業界を調べましたが、最終的には社会貢献のために生活に欠かせないインフラ関係の業務に携わりたいと思い、現在の会社を選択しました。
また企業の面接を通して、会社の方々の雰囲気にも惹かれ、働きやすい環境だと感じたのも一つの要因です。
実際に開発した技術を使用して設計支援を行うことに加え、通信の信号品質評価などの性能評価の業務にも携われることができるので、技術開発だけでなく製品開発の中のさまざまなプロセスに関わっていることにすごくやりがいを感じます。
また、すでに量産化されている製品だけでなく、次世代通信に向けた試作品の開発にも携わっており、とても面白いと思っています。
やはり規模感が大幅に違うことだと思います。会社では技術と製品開発にかかる全体のスケジュールや関わる人の数など何もかもが大規模です。規模が大きいほど製品開発の全体像を把握できないことも少なくありませんが、さまざまな部門の人が協力して進めています。
一方で、金研での研究は最初から最後まですべて自分で理解し、計画を立てていました。特に研究目標やスケジュールに関しては、会社ではゴールや利益に加え、年間目標などのスケジュールが明確に設定されているのに対し、金研での研究は研究過程で新たな発見があれば当初の目標と異なっていたり、自由にスケジュールを変更したりすることができた ので、そこが大きく違う点かなと思います。
チタン酸ストロンチウムの2次元超伝導物性の研究を主に行っていました。具体的にはベクトルマグネットを用いて試料面に対して垂直な方向と、平行な方向に磁場をかけて詳細な臨界磁場の角度依存性を測定しました。他にもEDLT(※1)というキャリアドープ手法を他のデバイスに応用するような共同研究も行っていました。
※1:電気二重層トランジスタ。イオン液体を用いることで従来の電界効果トランジスタに比べ、10倍以上のキャリアを誘起できる。
大変だった記憶ならいくらでもあります(笑)。低温や強磁場での実験はマシンタイムが決められていることが多いため、夜遅くまで実験することも度々ありました。ですが新奇な物理現象が見られた時や、それに物理的な理由付けをして成果を出せたときは面白いと感じましたね。
高専では学べないような基礎電子物性に興味があったため、理学部への編入を考えました。また大学に編入することで、早いうちから広い視野を持てると考えていました。実際に編入してからは単位の振替ができない授業が多かったため苦労しました。ですが、高専では1年生の頃から実験を行っているので、実験レポートを書くことに慣れているという点ではアドバンデージがあったと思います。
低温実験ができる研究室に行きたいと考え、最終的には雰囲気が自分に合っていると感じたため野島研を選びました。実際、研究室に入ってからは、研究はもちろんのこと、たこ焼きパーティーをしたり、金研バレー大会に出たりして、研究室生活を楽しく過ごせました。他にも野島研は他の研究室や他大学の人も装置を利用しに来ることが多いので、いろんな人と研究の話などで交流できました。
直接役立っている知識は多くありませんが、物事を論理的に道筋立てて説明する能力は役に立っていると思います。企業での研究においても予算を貰うためには稟議を回す必要があり、その時にも論理的に説明する能力は重要です。他にも人と議論する能力は現在でも活きていると感じています。あと役立ってはいないのですが、いつでもHeトランスファーや低温実験はできるぞ!という気持ちはあります(笑)。
どんな企業にでも言えることかもしれませんが、しっかりと自分の意見を論理的に説明できることはとても重要だと思います。研究生活で先生や他の学生と議論する機会はたくさんあると思うので、その中で自分の言葉で説明する力は十分に養えると思います。
一方で、性格的要素が優れているかどうかという指標はほとんど関係ないと思います。一緒に仕事がしやすい人はいますが出世とは直接結びつきませんし、社会には色々な人がいるので性格を気にする必要はないと思います。
やはり今後も研究や会社で培ってきたことを活かして幅広い研究開発の仕事をしたいと思っています。管理職などにも興味はありますが、私は専門性を活かせるスペシャリストでいたいという気持ちが強いですね。
金研には先端的な研究設備や専門性の高い先生がたくさんいます。環境的にはどこにも負けないくらい恵まれているので、せっかくだから積極的に自分の成長につなげていってほしいです。実験がうまくいかないことや先生の厳しい質問とかにもめげずに打ち勝っていく力、社会に出た時に思っている以上にそういうスキルは重宝されます。ぜひ皆さん研究生活、頑張ってください。
SHIRAI
KUDO
2024年8月インタビュー 野島研究室 (白井、工藤)
古河電気工業株式会社 研究開発本部 サステナブルテクノロジー研究所 高周波エレクトロニクス技術センター
東北大学大学院理学研究科 物理学専攻博士後期課程修了(2020年) 金属材料研究所 低温物質科学実験室(野島研究室)
※所属はインタビュー当時のものです。